金正恩委員長が突然の訪中~米朝首脳会談を前に(前)
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北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長を乗せたと見られる特別列車が26日、北京駅に到着した。4月の南北首脳会談、5月に予定される米朝首脳会談を控えて、金書記の突然の訪中は大国の動向に翻弄されてきた「コリアの闇」を再照明するのに十分だ。
1953年の朝鮮戦争の休戦から65年。金訪中は、朝鮮半島に強大な影響力があるのが依然として中国である、という地政学的な歴史観を再びよみがえらせた。朝鮮戦争は実質的な米中代理戦争だった。その「終戦」もまた、南北当事国の意思とは別に、中国と米国の意向に大きく左右されるということでもある。金訪中をめぐる周辺国の分析・論調は、混乱している。列車到着からまる1日が経過した27日午後になって、保守派の産経新聞が北京発で「確定」ニュースを流したが、これはとても異例である。これまでの北朝鮮首脳の北京入りが、事前に把握されていたのと較べても、異常事態である。
多くの日本人が誤解しているが、戦後の日本は朝鮮半島情勢に影響を受ける「周辺国」ではあっても、解決能力のある「当事者」ではない。
敗戦によって半島での既得権を失ったのだ。戦後に起きた朝鮮戦争でも、日本は米軍の発進基地ではあっても、戦争当事国ではない。朝鮮戦争は米国と韓国が、中国と北朝鮮を相手に戦った戦争である。
スターリンのソ連も表面上は、戦争の当事者ではない。だから朝鮮半島情勢で「決着」をつける際、日本とロシアが疎外されるケースはあっても、中国と米国が排除されることは国際政治の力学上ありえないのだ。金正恩委員長の訪中は、北朝鮮の最高指導者として初めてだ。
産経新聞(27日午後)の報道によると、中朝双方は今年初めから金正恩訪中について交渉。北朝鮮が核放棄に向けて取り組む姿勢を示すことを、訪中の条件にしていた、という。
北朝鮮の核開発が最終段階に到達したことによって、北朝鮮に対する米国主導の締め付けが格段に強化された。中国は金正恩政権を持て余し気味だったが、今年に入って平昌五輪の開催を機会に、北朝鮮側が「和平戦術」に転化した。
その後、周知の通り、妹の金与正の訪韓、韓国特使の訪朝を経て、南北首脳会談、米朝首脳会談の構想へと急ピッチで進展した。
中国当局者にとっては、南北首脳会談はともかく、米朝首脳会談の開催は、自らのテリトリーを脅かす事態である。北朝鮮側にとっても「5月の米朝首脳会談」実現へと進むのは、予想外の急展開だったに違いない。(つづく)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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