金正恩委員長が突然の訪中~米朝首脳会談を前に(後)
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私たちはここで、昨年4月の米中首脳会談で、中国の習近平主席から出たという言葉を思い出したほうがいい。米トランプ大統領が米紙に語ったところによると、習主席は次のように述べた。
「彼(習近平)はその後、中国と朝鮮の歴史を説明した。北朝鮮ではなく朝鮮(半島全体)の話だ。数千年にわたす話で、多くの戦争があった。朝鮮は実際には中国の一部であった。10分聞いた後。それほど簡単ではないことに気づいた」
習近平の歴史認識は、中国人の伝統的な朝鮮観を示すものとして、極めて重要である。習の発言は、韓国内では大きな反発を買ったが、金正恩の突然の訪中は皮肉にも、朝鮮半島と中国の密接な関係を証明することになったのである。健全な韓国常識人は、北の「非核化」を、詐欺劇と見ている。
北朝鮮の暴君と米国の暴君が、首脳会談を行う。それを仲介したのは、韓国の民族(ウリナラ)至上主義者たちであり、前代未聞の急展開に、当事者たちが当惑し、どぎまぎしているのが現状だ。
北による「体制保証」要望は、戦争末期の日本の「国体護持」願望を連想させる。その日本に米国は、原爆二発を投下して「解決」を早めた。首脳会談が近づくにつれ、米国の暴君の周辺に強硬論者が集結しているのが、事態の結末を予想させる。私の見立てでは、4月の南北首脳会談で朝鮮戦争終結宣言を行い、南北連邦制(韓国の用語では南北共同体)機運を盛り上げて、5月の米朝首脳会談に備える戦略だと見る。文在寅政権は北の企みに乗り、米国の暴君のご機嫌取りに走る。南北コリアの熱気(民族ポピュリズム)が異様に盛り上がり、半島の非核化が色あせた時、周辺国家は南北コリアへの締め付けを強化することになるだろう。
核武装は北朝鮮延命の最終兵器である。ここが依然として重要ポイントだ。
米国との戦争の最終局面で、大日本帝国は昭和天皇の「聖断」によって、内部崩壊の危機を乗り切った。足並みが揃わぬ「金正恩の決断」は自滅の危機をはらんでいる。
韓国特使との会談で金正恩は、核・ミサイル実験の中断と非核化の意志を表明したという。だが、北朝鮮国内ではこれまで「絶対に核放棄はしない」「核は正義の宝剣」「我々は核強国」などと主張してきた。その矛盾をどう打開するのか。
中国は、訪中した金正恩を、平壌に返すのだろうか。北京の動向が分からないのだから、平壌が今どうなっているのか、誰も掌握できていない。
現時点で確認すべきは、コリア情勢の最終的な舵取りは、伝統的に中国の手にあるという歴史的な事実だ。日本の朝鮮支配と戦後期は、その例外だったに過ぎない。金正恩が中国に「亡命」すれば、周辺国が待望した結末になるのだが、世界の動きは、そう都合良く行くものではない。(了)
<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。関連記事
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