風雲急を告げる朝鮮半島情勢 ハワイに集う日米韓の専門家の分析(前)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
朝鮮半島をめぐる動きが急速に活発化している。北朝鮮の金正恩委員長が夫人や最高幹部を引き連れ、電撃的な北京訪問に打って出た。去る3月25日から28日のこと。これには世界が驚いた。2011年に史上最年少の国家最高指導者の座について以来、初の外国訪問である。中国の習近平国家主席の招待を受けてのことであった。中国メディアの報道によると、習近平主席は金正恩委員長に対し「今回の訪中を歓迎し、その労を多とする」と語ったという。憲法も改正し、絶対的な権力を手中に収めた習近平主席による意表を突いた内外向けの意思表示といえよう。3月21日、22日の2日間、ハワイで開催された各国の専門家による国際会議でも、朝鮮半島情勢が最大のテーマとなった。
北朝鮮の最大の保護者
金正恩委員長は、「朝鮮半島の未来を決定付ける力は中国にある」という存在感をアピールした。南北首脳会談や米朝首脳会談を間近に控え、若き指導者は自らの父親が歩んだ道を踏襲し、最大の保護者であり得る中国に敬意を表し、韓国やアメリカとのトップ会談の前に習近平主席からのアドバイスを求めたのである。
まさに、中国にとって「渡りに船」とはこのことであろう。北朝鮮の核放棄と朝鮮半島の非核化の実現を目指すアメリカのトランプ大統領に対して、「中国の関与なくして非核化はありえない」というメッセージをぶつける作戦にほかならない。中国政府は金正恩一行の北京到着を待って、ワシントンにもその旨を伝えた。
ご丁寧に習近平主席はトランプ大統領宛の私的メッセージも添えたというではないか。そこには中断したままの「6カ国協議の再開」に向けた地ならしの意味が込められていたに違いない。いうまでもなく、6カ国協議の主役は一貫して中国であった。こうした一連の動きから、中国が用意周到に金正恩委員長に対し水面下で働きかけを強めていたことがうかがえる。
日本政府は安倍首相も河野外務大臣も「報道で知って驚いている。中国から詳しい説明を聞かなければならない」と発言し、自らの情報収集能力の欠如を世界に明らかにしている。これでは中国からもアメリカからもスルーされてしまうだろう。なぜ、このタイミングで金正恩委員長が訪中に踏み切ったのか。トランプ大統領が是が非でも欲しい「北朝鮮の核放棄」という成果は中国の力なくしてはありえない、という中国式の交渉術なのである。
そうした中国の強かな外交戦略の先を読まなければ、拉致問題を始め日朝関係の打開は難しくなる一方である。実は、これまでも中国が仲介役となり北朝鮮との間で長引く日本人拉致問題の解決への提案があったにもかかわらず、歴代の日本政府は中国からの申し出を「お金目当てに違いない」と、ことごとく無視してきた。過去の失敗の教訓が生かされていないのは残念至極だ。
日米韓専門家が議論
朝鮮半島情勢の現状と今後を多面的にとらえる努力は欠かせない。その意味で、3月21日と22日にハワイで開かれたパシフィック・フォーラム主催のアジアの未来に関する国際会議は示唆に富むものであった。アメリカ本土からはリチャード・アーミテッジ元国務副長官を始め、政治、経済、安全保障の専門家が集まり、ホノルルの米太平洋司令部の現役、OBも顔をそろえた。会議は非公開であったが、その分、各参加者の本音の議論が交わされたといえるだろう。韓国や日本からの参加者を含め、時節柄、朝鮮半島情勢が最大の関心テーマとなったことはいうまでもない。
そこで今回は、この会議のエッセンスを紹介してみたい。会議の性質上、発言者の氏名や機微にわたる部分は活字にできないことをご理解いただきたい。しかし、アメリカの政策立案者たちの危機感や使命感といった部分を感じ取っていただけるはずだ。
「危機なら戦争」
まずは、アーミテッジ元国務副長官の冒頭の発言を紹介したい。同氏に関しては発言の記載について了解を得ているので、ご安心いただきたい。相変わらずの巨漢であるが、その発言は繊細であった。冒頭からイスラエルのシモン元首相の名言を引用。「問題なら解決可能。しかし、危機なら戦争」。なかなか意味深な言葉である。
現下の朝鮮半島情勢に照らせば、「北朝鮮の存在と脅威は現実のもの。友好的存在とはいえない。よって、軍事的能力と攻撃的意図を正確に判断する必要あり」というわけだ。中国やロシアの場合であれば、「ともに能力はあるが、意図はない」ことは明白である。
しかし、こと北朝鮮となると、その意図を理解するのは容易なことではないだろう。しかも、北朝鮮の場合には意図的に外国の理解をかく乱するために情報を秘匿するのが常套手段と化している。問題が危機とならないように国際的な対応が欠かせないという。
その点、「アメリカにとって日本は最大の同盟国である」と繰り返すアーミテッジ氏である。とくに、安倍首相の提唱する「インド太平洋戦略」は重要との認識であった。インドは中国の脅威を実感しており、モディ首相は日本、アメリカとも協調し、対中警戒路線を歩んでいる。
一方、「韓国はトランプ政権との交渉(ディール)を意図し、見返りを求めている。北朝鮮からは対米対話について正式の発言はない。すべて韓国政府経由であるため、その説明には100%の信用を置けるものか慎重に判断する必要がある」という。
また、トランプ大統領が、国務長官を始め、閣僚や側近を次々に解雇(ファイアー)していることを踏まえ、「大統領には信頼できるスタッフが不足しており、危険極まりない状態である」と率直な意見を表明した。
折りから、トランプ政権は中国への関税強化政策を発表したわけだが、その点に関しては「反動も大きいはず。中国からの輸入品への課税は500~600億ドルに相当する。かつて中国が日本へレアメタルの輸出禁止措置をとったことを想起させる。中国の対米制裁もあり得る。ノルウェーや台湾も経済面で影響を受けている。オーストラリア、日本、アメリカも同じといえる」との見方を示した。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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