シリアをめぐる米ロの対立は第3次世界大戦への幕開けか?(前)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
4月半ば、ウクライナの首都キエフで「欧州安全保障フォーラム」が開催された。欧米各国の政治、経済、安全保障の専門家300名ほどが参加。今回で11回目を迎える会合は、毎回、活発な議論が展開され、世界の注目を集めてきた。筆者は日本人としては初めてこの会議に招かれ、2015年にノーベル平和賞を受賞したチュニジア人権同盟の代表らとパネル討議に加わった。
折から、シリアにおけるアサド政権の化学兵器使用疑惑が引き金となり、アメリカとイギリス、フランス連合軍によるシリアへのミサイルと空爆による攻撃が実施された。その時期と重なったため、このフォーラムではヨーロッパにおける安全保障の在り方が大きなテーマとなった。
ウクライナではロシアによる軍事的な介入により黒海に面した戦略上の重要拠点が収奪され、現時点においてもロシア軍とウクライナ軍との間で戦闘が続いている。シリアにおいても、強権的な弾圧政治を続けているとされるアサド政権をロシアが全面的に支援している。そのため、このキエフ安全保障フォーラムを主催したポロシェンコ大統領を始め、ウクライナ政府の主導者たちは一致してロシアの「力による現状変更」という政策を強く非難した。ウクライナからすれば、当然のことであろう。
ポロシェンコ大統領に言わせれば、「ウクライナこそがヨーロッパ正面においてロシアの脅威に直接向き合っている。この状況を突破しなければシリアは当然のことながら世界各地でロシアの無謀な行為を容認することになりかねない」。言い換えれば、ヨーロッパでウクライナが置かれている状況はアジアにおける日本が直面する課題とも共通点が多いというわけだ。
ウクライナと日本が政治、経済、安全保障の各分野で一層連携を深めることが望まれる。昨年2017年はウクライナと日本が国交を樹立して25年目を迎える節目の年であった。そのため、ウクライナの歴史上初めて「日本年」と題するイベントが各地で展開された。ウクライナ全土の小学校、中学校、そして地域の集会場を舞台に1,000回を超える日本文化を紹介する催しが開かれた。
和食や日本酒といった食文化はもちろん、アニメや伝統的な歌舞伎など日本の誇る文化芸術を紹介する貴重な機会となった。ウクライナの人々の間では、村上春樹を始め現代日本人作家の作品も広く愛読されており、日本のドラマや映画も親しまれている。キエフの街のメインストリートには日本語の看板や垂れ幕も目立った。
加えて、ロシアとの厳しい対立状況に陥っているウクライナを経済的に支援するため、日本政府はこれまで2,000億円を超える有償、無償の経済支援を実施してきている。たとえば、首都キエフにおける下水処理の施設はすべて日本が建造したもの。また、ウクライナにおける警察車両、具体的にはパトカーはすべて日本車が使われ、これらも日本が経済援助の一環として提供したものである。当然、市内を走る自動車も日本製が圧倒的であった。
そうした背景もあり、ウクライナ人の日本に寄せる親近感と尊敬の念は旧ソ連邦の国々のなかでもずば抜けて高いといえるだろう。とはいえ、ロシアによるウクライナへの石油や天然ガスの供給のストップという制裁の影響を受け、ウクライナにおける電力供給には不安が残る。実際、東部地方では激しい戦闘が続いているため、日本からの企業進出や旅行者の訪問は極めて限られているのが現状である。
今回の会議ではポロシェンコ大統領やフロイスマン首相から欧米諸国や日本に対するさらなる支援要請が繰り返し述べられた。それだけロシアとの関係において、ウクライナは厳しい状況に置かれていることが伺えた。とはいえ、首都のキエフに関していえば、人々の表情は明るく、戦時下の緊張した雰囲気はあまり感じられなかった。実は日本とウクライナとの間にはいくつもの共通点が指摘できる。第一は、30年以上前に発生したチェルノブイリの原発事故と7年前に福島で発生した原発事故である。歴史上最悪と形容された原発事故の影響はいまだウクライナにおいても影を落としている。欧州最大の穀倉地帯であるため、農作物に関する風評被害がある。また、子どもたちに見られる甲状腺がんなどの健康問題もある。
福島で原子力事故が発生したときには、ウクライナの政府や市民から大量の放射線測定器、ガイガーカウンターを始め毛布、防御マスク、ヨウ素吸着缶などの支援物資が送られてきた。今後も原発事故からの復興に向けて、医療面での情報や技術の交流、そして農業への影響を克服するための協力関係が求められる。自然再生エネルギーの開発や国民に省エネや再エネに関する経験や情報を広めることも重要であろう。
第二は、「力による現状変更に反対する」という点だ。この点でも、ウクライナと日本は共通の課題を抱えている。ロシアによるクリミアへの侵攻と併合は現在進行中の課題である。日本にとっては、ロシアによる北方領土の不法占拠と近年の軍事基地化の問題は未解決のままである。まさにウクライナと日本がロシアとの間で抱える共通の課題といえるだろう。
第三の共通の課題としては、北朝鮮に対する政策が指摘できる。日本は北朝鮮による拉致問題という深刻な人権侵害問題を抱えている。実はウクライナも旧ソ連邦の一員であった頃、スターリンによって数十万人の単位で自国民をロシア極東シベリア方面へ強制移住させられた歴史がある。
彼らは本国から着の身着のままでロシアの最果ての地に送り込まれたわけだが、持ち前の創意工夫を重ね、厳しい環境の新天地でも大きな成果を成し遂げた。その結果、ロシア極東地域から数多くのウクライナ人が「さらなる未開の地」である北方四島に強制移住を余儀なくされたのである。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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