2024年11月23日( 土 )

久留米欠陥マンション裁判の残る争点「鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ不足」(後)

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設計・施工の瑕疵は重大、建替えは必要

 ――ご説明いただいた、「鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ不足した箇所が多数存在している状況」を解消するためには、どういう方法が考えられますか。

新生マンション花畑西

 仲盛 このマンションの裁判は、設計と施工の瑕疵が重なり、耐久性と耐震強度が著しく劣る建物であることから、区分所有者が、被告などの不法行為による建物の瑕疵を回復する手段として、マンションの建替えを求めたものです。

 施工の瑕疵である鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ不足だけを補修するとした場合でも、専有部分の補修工事を行うためには、居住者がほかの場所に仮住まいしなければ工事ができないなど、相当な費用が見込まれるので、現実的ではないかもしれません。

 施工の瑕疵は、かぶり厚さ不足だけでなく、図面に明記された梁が全階で30カ所も施工されていないなどの瑕疵も存在します。原告は、それらの瑕疵を解消する方法を総合的に考え、マンションを建て替える必要があると判断して、建替えを求める訴訟を起こしたものです。建て替えるべきか、補修により、ある程度の耐力を確保するのか、裁判所の判断に委ねられることになると思います。

 ――原告側は、台湾を始め環太平洋地域で群発している地震や、関東・東海地方などで巨大地震発生の確率が30年以内に70%などと国が警告している状況などから、地震による倒壊の不安があるとして、早期解決を求める上申書を裁判所に提出しました。和解などで早期解決を図る動きもあるようです。

 仲盛 私は、法律の専門家ではないので、和解が整うかどうかについては何ともいえませんが、構造技術的な面からいえば、設計の瑕疵も施工の瑕疵も重大なものであり、とくに、鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ不足や、図面に示された梁が全階で30カ所も施工されていない状況を健全な状態に戻すためには、補修などではなく、建替えによるべきであり、もし、私が原告の立場であれば、建替えという判決を求めると思います。ただ、原告たちの地震に対する不安や恐怖は深刻であり、そのような原告の心理状況を考えれば、和解という選択肢も理解できなくもありません。

 本来、企業に不手際があった場合、まず謝罪をし、そこから、すべての対応を始めるべきですが、鹿島建設は謝罪するどころか、開き直っています。同じ建築に携わる者として、被告の鹿島建設や設計事務所には誠意ある対応をしてほしいと思っています。

かぶり厚さ不足で損害賠償、川崎・札幌の両地裁に判例

 ――鉄筋のかぶり厚さ不足などの施工の瑕疵に対して、建替えを命じた前例はありますか。

 仲盛 横浜地裁川崎支部および札幌地裁で類似した事件の判例があります。
 横浜地裁川崎支部の判決(平13・12・20)によると、鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さが基準(30mm)の3分の1(10mm)しかない箇所を含め、不足箇所が多数あった鉄筋コンクリート造3階建ての店舗兼用住宅について「本件建物の耐久性は、基準の9分の1程度しかなく、耐火性についても問題がある」とし、かぶり厚さ不足を「重大な欠落」と判断。建築業者の瑕疵担保責任および不法行為責任を認め、取壊費用、再築費用、弁護士費用、一時移転費用、慰謝料などの支払いを命じています。

  また、札幌地裁の判決(平17・10・28)では、賃貸マンションにおける鉄筋に対するコンクリートのかぶり厚さ不足(15カ所)などの瑕疵について、建築基準法施行令だけでなく、日本建築学会の建築工事標準仕様書(通称:JASS5)に違反する瑕疵は、ずさんな施工の結果であるとし、建設会社と設計監理を行った設計事務所の共同不法行為を認め、損害賠償を命じています。

 ――「新生マンション花畑西」のかぶり厚さの状況と酷似しているように感じます。

(了)
【聞き手・文:山下 康太】

 
(中)

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