シリアをめぐる米ロの対立は第3次世界大戦への幕開けか?(中)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
現在、ロシアが実効支配する北方四島に暮らす人々はロシア人とひとくくりにされているものの、民族的な分類に従えば、ウクライナ人が大きな比重を占めているのである。終戦後、北方四島に暮らしていた日本人が北海道に追いやられたのと同じように、実は数多くのウクライナ人たちが生まれ育った場所から無理やり縁もゆかりもない北方領土に移住させられたのである。こうした歴史的経緯に着目すれば、北方領土問題の平和的解決という目標に向けて、日本とウクライナが新たな連携の可能性を模索するということも意味があるに違いない。
さて、当面の最大の難題といえば、シリア情勢であろう。なぜなら、アサド政権に対する米英仏の攻撃は新たな第三次世界大戦への幕開けとなる可能性を秘めているからだ。いうまでもなく、シリアのアサド政権の後ろ盾はロシアのプーチン大統領にほかならない。欧米諸国はアサド政権が自国民に対して、なかんずく女性や子どもらを含む無差別の神経ガスによる虐殺を繰り返しているため、「人道的な立場からシリアの化学兵器製造拠点を破壊せざるを得なかった」と説明している。
しかしながら、アサド政権もロシア政府もシリアはすでに生物化学兵器をすべて破棄しており、今回のアメリカ主導の英仏を巻き込んだ軍事作戦は明らかに力による現状変更、すなわち「シリアの政権転覆を意図した内政干渉にほかならない」との立場をとっている。国連の報告書によれば、「米軍はリビアのカダフィ政権を倒した後、サリンや神経ガスをリビアからシリアのテロ組織に譲り渡した」。そうした化学兵器が使われた、というのがロシアの言い分のようだ。要は、アメリカとロシアの見方は真っ向から対立しているのである。
これまで7年にわたり、ロシアはシリア国内の反体制派ならびにイスラム過激派組織を掃討する目的でロシアの正規軍のみならず多数の元軍人によって編成される傭兵部隊を送り込んでいた。そしてアサド政権の政府軍とともに軍事作戦を遂行し、シリアにおけるアサド政権の影響力確立に欠かせない役割をはたしてきたのである。
そのため、アメリカ主導の対シリア軍事行動はロシアからすれば真っ向からロシアに対する宣戦布告と受け止められても仕方がないだろう。そのためプーチン大統領は声明を発表し、「シリア軍を支援し、外部からの侵略を食い止めるためにはあらゆる手段を講じる」との姿勢を明らかにし、欧米軍との戦闘も視野に入れていることもアピールすることになった。まさにこれは、「第三次世界大戦への幕開け」を示唆するものといえるだろう。
アメリカの国防総省の発表では、米英仏によるシリア攻撃の成果は歴然としており、「狙った目標をほぼ完全に破壊した」とのことである。しかし、アサド政権やロシア軍によれば、シリアに配備された地対空ミサイルによってアメリカのミサイルの7割以上が目標に到達する前に破壊されたという。
どちらの言い分に理があるかは定かではない。双方それぞれに言い分があるだろう。いずれにせよ、大規模な軍事作戦がシリアにおいて展開されていることは、今後のアメリカとロシアとの関係を占う上で極めて深刻な事態といえよう。この点に関しては異論の唱えようもない。
日本ではまったくと言って良いほど関心を呼んでいないが、アメリカ軍はシリアに2,000人以上の米軍兵士を派遣し、反アサド政権のイスラム過激派組織や反政府ゲリラを支援してきたのである。その背景には過去70年以上に渡り、アメリカの国家戦略としてシリアを自国の影響化に置こうとする戦略的動きが隠されている。
中東の資源を確保し、そのうえで地中海へのパイプラインを結ぶ要衝の地であるシリアを自国の思うままに動かそうとするのが1949年以来のアメリカの基本戦略であった。そのため、アメリカはCIAや特殊部隊がさまざまなかたちでシリアに介入を企ててきた。
歴史を紐解けば、1957年の時点で早くも、アメリカの大統領とイギリスの首相はシリアにおける政権交代のための秘密工作に着手していたことが明らかにされている。シリアとヨルダンおよびイラクとの国境周辺において紛争を引き起こし、アメリカとイギリスによる介入のきっかけを意図的につくろうとしたのである。また、アメリカのCIAとイギリスのMI6は協力し、シリア国内の反政府組織に資金と武器の提供を行った。ダマスカスにおけるイスラム教過激派組織への支援活動も強化したことが当時の外交文書を見ると明らかになっている。
1983年のCIAの文書を見れば、イラク、イスラエル、トルコといった3カ国との国境周辺においてシリアに対する同時攻撃をアメリカが仕掛けていたことが明確に記載されている。当時も今も、シリアにおける政権転覆がアメリカにとってこの地域における影響力拡大に欠かせないとの認識であったことが伺える。
2001年の米国防総省の内部文書においても、「来るべき5年間の間に7カ国の支配権をアメリカが画策していること」が明確に述べられている。これら7カ国というのは、イラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダンそしてイランである。こうした長期的な目的を達成するため、アメリカはイラクとシリアに対する国内分断作戦を強力に推し進めてきた経緯がある。こうした作戦の背景には旧ユーゴスラビアを7つに分断させたという成功事例が強く影響していると思われる。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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