2024年11月23日( 土 )

築地市場移転、小池都知事の「アウフヘーベン」の害悪(3)

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風評被害を呼ぶ深刻な土壌汚染

豊洲市場

 多くの築地の人たちが移転先と聞いて、眉をひそめる豊洲。そもそも同地は、1923年の関東大震災の瓦礫処理で埋め立てられたのが始まり。56年、東京ガスのガス製造工場が同地で操業を開始し、88年に操業を停止するまで、石炭や石油から都市ガスを製造していた。ガスの製造過程では、有毒物質であるヒ素を使用し、副産物としてコールタールやベンゼン、シアン(青酸カリの原料)などが生成される。

 東京ガスが東京都に土地を売却する前に行われた汚染調査では高濃度の汚染が判明。一定の対策が行われたが、その後の調査で深刻な土壌・地下水の汚染が判明。対策面積約40ha、費用約600億円という国内最大の土壌汚染対策事業が計画されたが、2011年3月11日の東日本大震災で、豊洲地区の液状化が発生し、実施されなかった。

 土壌汚染対策を行ってきたと主張してきた東京都。しかし、17年1月の水質検査では、環境基準の79倍のベンゼンを検出。さらに今年4月4日、地下水モニタリング調査の結果、環境基準値の最大130倍となるベンゼンが検出された。また、17年12月から今年2月までに豊洲市場の地下水を採取して調査した結果、24地点で有害物質のベンゼン、22地点でシアン、14地点でヒ素が環境基準を超えて検出されたという。「中長期的に改善を図っていく」とトーンを落とす東京都。何より安全が求められる「食」を預かる市場である。その移転先には、少しでも「食」の安全を脅かすリスクがあってはいけない。土壌汚染は移転前に片付けるべき問題である。

説明できない違法構造設計

築地移転反対集会(18年4月14日)

 4月14日、東京都内で開かれた築地市場の移転に反対する都民の集会が開催された。講師として招かれたのは、(協)建築構造調査機構の仲盛昭二代表理事。仲盛氏は、某週刊誌の依頼により、構造設計の問題が指摘されていた、豊洲市場水産仲卸売場棟の設計図を分析。構造一級建築士としての立場から、建物の耐震性に関わる問題点について、弊誌「I・B」2293号およびニュースサイト「NetIB-NEWS」に解説記事を寄稿した(参照記事)。

 さらに仲盛氏は、昨年11月、構造設計の専門家として危険な建物を見過ごしてはならないとの境地から、昨年11月、費用を自己負担し、豊洲市場の構造上の安全性について東京都に是正措置を求める訴訟を東京地裁に提起。しかし、同地裁は今年3月28日付で「原告は福岡在住で、豊洲市場の倒壊の影響を受けないので、本件訴えの利益を有する者とは認められない」との理由で却下した。

 これらの仲盛氏の一連の行動が、築地移転反対運動を行う合同・一般労働組合全国協議会の小泉義秀事務局長や築地市場の仲卸業者の知るところとなり、招聘される運びとなった。

 仲盛氏は、水産仲卸売場棟の構造設計について、以下の3つの問題点を指摘しており、今回の講演でも、その内容に関する資料が配布され、説明が行われた。

(1)層間変形角が建築基準法を満たしていない。
(2)保有水平耐力計算における係数を不適切に低減しているため、安全が確認できない。
(3)鉄骨鉄筋コンクリート造の建物1階の柱脚の鉄量が規定の半分程度(56%)しかない。

講演を行った仲盛氏

 すべて建物の耐震強度に関わる重大な問題だが、とくに(1)は、たとえ建物が倒壊に至らなくても、その機能性を著しく損なう可能性を大きくしている。建築基準法施行令(第82条の2)では、200分の1以下と定められているが、問題の水産仲卸売場棟においては東京都が設置した市場問題PTのなかで、東京都が日建設計に対し、層間変形角を100分の1に緩和していたことが判明した。

 層間変形角とは、地震などで横から力が加わった際、建物がどれだけ歪むかを見る数値であり、たとえば層間変形角200分の1であれば、高さ2mの建物だと歪みは1cmだが、100分の1だと2cmとなる。仲盛氏は講演のなかで「豊洲市場の水産仲卸売場棟には個別認定はなく、明らかに違法であり、地震に対して揺れすぎ。東京都と日建設計の間で『この建物だけはいい』などと勝手に基準を逸脱することはあってはならない」と説明。層間変形角100分の1による建物の歪みで、地震時にサッシや外壁の落下、ドアの開閉が困難になるなどの不具合の発生が予想される。

 (2)は、鉄骨鉄筋コンクリート造である水産仲卸売場棟の1階柱脚(柱の根元部分)が非埋め込み型であるため、いわゆる耐震強度を求める保有水平耐力計算の係数は鉄筋コンクリート造の係数を採用しなければならないところ、鉄骨鉄筋コンクリート造の低減された係数が採用されているというもの。「建築基準法施行令および告示に違反しており、耐震強度を17%も高く偽装している」(仲盛氏)という。

(つづく)
【山下 康太】

 
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