2024年12月24日( 火 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(6)

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Ⅲ.2018年の重要事項

米国は中間選挙を意識した経済運営に
 さて、次のテーマ、2018年の重要事項に移ります。1つはトランプ大統領の経済政策、あるいは政策全体であります。私は30年以上、米国のニュース雑誌『タイム』誌を読んでおり、まあ目次を見て面白そうなテーマがあれば読む程度ですが、実は直近の同誌において、今年は場合によってはこれまでの米国の歴史に比肩されるような大きな分水嶺の年になるかもしれないと書いております。どの程度の次元の分水嶺かと申しますと、1776年の米国の独立宣言、あるいは1861年の南北戦争、それから1941年の真珠湾攻撃、1968年、同年3月次の期を狙うと思われていたジョンソン大統領がベトナム戦争の動向を憂慮して突如立候補断念を発表し、数日後黒人運動指導者のキング牧師が、6月にはロバート・ケネディ上院議員が暗殺され、そのなかでニクソンが大統領となった年であるとしています。それらの年に比肩するような分水嶺の年になるかもしれないということを書いているわけです。非常に巧妙に書いておりまして、なぜ比肩する年になるのかは明確に書いていないわけです。潮の変わり目ということです。米国でタイム誌は知的な反トランプグループの中核みたいなところのようなのでそこを割り引いて考える必要があるのかもしれません。しかし、そういう認識が米国の中にあって、それが世界全体に情報としてばら撒かれているという事実が大事なことだろうと思います。

 トランプ大統領の経済政策を見るときは4つぐらいの手がかり((1)本人の発言(2)人材の配置(3)共和党の政策(4)米国の特殊な仕組み)を見るべきだと昨年申し上げましたので説明は省略いたしますが、そのなかでとくに経済政策の関係で大事なのは共和党の政策であります。先ほど申し上げましたように共和党は法人税減税に表れているように企業に対して優しいですね。それから財政赤字には反対ですし、規制の緩和はやるべきだ、政府の役割は小さいほうがいい、という主張であります。この話から1つだけ面白いのは、租税政策のなかでは、先ほど申し上げました法人税を35%から21%に減税する法案を通し、10年間これで行くということです。これはこれまで議会を通った唯一の大きな法案でありまして、彼らは30年間の悲願が叶ったと言っております。

 大変苦労して通したわけでございますが、法人税減税を通したときに、彼らはいろいろなことを言って、米国の法人税はいかに高いかということを宣伝しました。そのなかで日本に対して間違いがあります。日本の法人税は21%だとかいう話をしているのですが、これは国税だけの話をしておりまして、我が国の法人の所得には地方住民税が課されますので、これを入れますと実効税率は30%になります。いずれにしても、そういう認識が米国にあるということをわれわれは気を付けなければならないのです。彼らは、たとえば法人税はフランスが34%、オーストラリアが30%で、米国は35%と高かったのがようやく21%に下がったということを言っています。

 これで問題は何かと言いますと、財政赤字が増えることです。この減税の結果10年間で1.5兆ドルの赤字が増えることになっていますが、その穴埋めをすべき医療保険のオバマケアが廃止されていません。そこで財政赤字が拡大するということになります。かつて共和党政権は財政赤字に反対だと言いながら、結果的に財政赤字が増える経済運営をやってきましたが、今回もそういうことになるかもしれません。

 個人の所得にかかる所得税については7段階から3段階になり、全体として減税だと言っています。これは、共和党は「中間所得層に対する減税だ」としていますが、一般的には「実態は富裕層に対する減税ではないか」と言われています。にもかかわらず共和党はなぜそう言い張るのか。それは選挙の時に共和党は中間所得層の減税をすると言ったからです。その約束を守っているということを皆に示さなければならないので、これをあえて中間所得層への減税だと言っているのだと私は思います。大事なことは、選挙の時の公約がそれだけ重いということです。日本にも関係しますけれども、政治の主権者が国民であり、その国民にどう約束を実行していくかが政治家の役割だということが明確に出ているわけです。だから、たとえそれが不正確であっても、中間所得層の減税ですよと言わざるを得ないのです。それだけ選挙民の政治家へのコントロールが効いているということではないかと思います。

 次に大規模インフラ投資について、公約の1兆ドルはもう駄目になりました。「2,000億ドル?」とレジュメに書いていますが、今年中に支出を1,000億ドルやる、そのうちの200億ドルを公費で出すという演説をかつて財務長官がしただけでして、それを10年間やるとしても、せいぜい2,000億ドルのようだという意味です。選挙の時の話と違うわけです。選挙の時には財政支出が1兆ドルという話だったはずです。そういうことで、大きな景気刺激効果という意味では法人税減税だけであって、皆が期待していた公共投資の増加は、ないということだろうと思います。

 (注)その後出された、大統領の一般教書では、10年間で財政支出2,000億ドル、州政府や民間の関連支出を含めて全体で合計1.5兆ドル以上とされました。

 米国の場合は、当面は2018年の中間選挙を意識した経済運営になると思います。昨年のこの講演で現在のように共和党の大統領の下で、しかもその上院、下院ともに共和党が過半数を握っているのは、アイゼン(ワー大統領以来だと申し上げましたが、今のところ下院では20議席以上共和党が多く、上院はたしか1、2議席ほど多いだけでして、多分今秋の選挙後は上院のほうは確実に過半数を割るでしょうし、下院についても心配する向きもあります。となると、この米国の経済政策が非常にまた、これまで以上にやりづらくなるだろうと思います。ということで、トランプ大統領の経済政策についてはこれぐらいにします。

(つづく)

 
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