2024年12月25日( 水 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(8)

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米国内でも異論が多いNAFTA手直し
 そういうことを前提にしまして、米国の政策について解説しますと、まず2017年1月に米国はTPPを離脱いたしました。しかし、離脱はしたものの、「自分の国に有利に働くようになるのではあれば戻ってもいいよ」というようなことをトランプ大統領が言ったと、この前報道されました。それからNAFTA手直しについては、メキシコと米国とカナダの間で交渉をやっていますが、これは非常に大変だろうと思います。なぜ大変かと言いますと、手直しの案は米国が提示したわけですが、まず1つはNAFTAの協定を5年間の暫定協定にしようというわけです。5年ごとに見直しをしようというのですから、そうすると協定を作ったメリットがかなり減るわけです。協定が長期にわたって変わらないということであれば、たとえば、日本の企業は安心してメキシコに進出したり、米国に進出したりしているわけですが、それが5年経ったら変わるかもしれないとなれば、そうはいきません。この5年ごとに改定し直そうということには、米国でも実業界にかなりの反対があります。

 2つ目は、自由貿易協定でゼロになる品目は、米国でつくられた物が50%以上含まれるものにしてくれと要求しているようですが、これはなかなか理解しがたい考えです。自分の国で作った部品が半分以上でないとその輸入品に対する関税をゼロにしないという話になりますと、何のための協定かわかりません。これはおそらく米国の実業界も反対だろうと思います。3つ目は、意外にこの手の交渉で大事になる、争いが起こった時にどうするかという争訟規定についてです。詳細はよくわかりませんが、この争いを解決するための規定を軟らかくしよう、つまり米国に有利にしようということのようです。

 このFTAの手直しは大変な話であります。すでに1994年から動いている制度をどうかしようという話ですからね。実際に米国の製造業界も反対しています。その理由は、たとえば、米国で自動車をつくろうとしたときに、少なくともメキシコでしかつくらない部品もありますし、米国内でつくれば高くつく部品もあるからです。そういうメキシコの部品に対しても関税をかけることになれば、出来上がった米国の自動車の価格競争力が落ちることになるからです。

 それから今もう1つの業界は農業です。ご承知の通り、米国は農業大国であります。この手の改定に際しては農業の自由化を強く主張してきます。この米国の農業界は、もしNAFTAを崩されたら、メキシコやカナダに輸出する農作物の関税ゼロがなくなるわけですから、NAFTAの存続を強く望んでいます。NAFTA手直しの影響で米国農産品の輸出が不利に働く可能性もあります。そこでこのNAFTAの手直しには基本的に反対であります。いずれにしろ、この交渉は相当に難航するだろうと思われます。

 次の対EUとのTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定)についての詳細は省略いたしますが、進展はしてないようです。対中国については選挙期間中に主張していた「関税45%」「通貨操作国指定」といった強硬な政策は今のところないのですが、今後明らかに貿易政策は硬化していくものと思いますし、すでにその兆しがございます。1つは中国からの鉄鋼に対して規制をかけると言っていますし、さらに通商交渉の官庁であるUSTR(アメリカ合衆国通商代表部)の代表は「中国をWTO(世界貿易機関)に入れたのは間違いだった」とさえ発言しています。たしかに、客観的な基準から見れば、中国のあの程度の自由化では普通ならWTOに入れません。しかし、おそらく中国の経済力その他を考慮したのだろうと思いますが、2001年12月にWTOに入れてしまいました。よく考えてみたら「これはどうもいけない」ということです。WTOから排除するという議論にはならないと思いますが、いずれにしても米国が今後中国に対してきつい貿易政策を採るのは明らかであると思います。

 いずれにしても、中国に対する政策の風向きが変わりつつあることは、先に述べた通りです。

 (注)その後米国は、国の安全保障の観点から、鉄鋼の輸入に対して25%、アルミニウムに対して10%の関税をかけると発表した。

(つづく)

 
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