業績急伸、採用難時代に際立つ人材調達力(後)
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(株)ワールドホールディングス
付加価値型に注力へ
人材派遣業界には2018年問題が存在する。13年4月に施行された改正労働契約法により有期雇用を5年継続した場合、労働者から申し入れにより無期雇用に切り替えることができる。15年9月には改正労働者派遣法が施行。3年を超えて同一企業同一部署での派遣社員は派遣先での直接雇用や派遣会社への無期契約に切り替える。いずれも今年4月と9月にその期限を迎える。
派遣業界が迎える危機ともされるが、同社では、これを「好機になる」と前向きに捉えている。同社はすでに6割が正社員であり、対応を終えている。変化していく労働環境への対応を迫られる企業の受け皿になる可能性を秘めている。
とはいえ、今後はAIの進化など業界を取り巻く環境が激変することが予想される。業界関係者は「これまで派遣業界の人材が担ってきた業務が確実にAIやロボットに置き換わる。大きな脅威だ」と危機感を露わにする。ワールド社にとっても人材事業の6割を稼ぎ出すファクトリー部門はその脅威に晒されると見られる。
同社は2つの考え方をもって挑む。1つは付加価値の高い事業のブラッシュアップだ。研究開発を手がけるR&D事業の現業社員は現在約1,000名。これを3年後に6割増やす考えだ。昨年京都大学と大阪府立大学の研究室と共同研究契約を締結した。既存社員のスキルアップと優秀な人材の調達先と一石二鳥の効果が望める。同事業の売上は64億円と現状大きくないが3年で6割の増収をはたした有望市場だ。現在業界トップ3との売上の差は大きいがこの分野なら首位をうかがうことも可能だ。
もう1つがファクトリー事業を確実に拾っていくことだ。「パソコンが普及した時も人手がいらなくなるといわれたがそうならなかった」(同社)。いわゆるオープンソース化が進みメーカーが外部と共有する技術は増える。同社は一時的な作業業務でなくメーカーが行っている分野に入っていく。人で機械に置き換わらない部門を担っていくのだ。役割や担当は変わるかもしれないが人手の需要はなくならない、という考え方だ。
アマゾン依存の強みとリスク
同社の売上のうち131億円がアマゾンジャパン向けだ。これは前期比7割増。売上高にして54億円の増収だ。時流を鑑みて今期の大幅増収もほぼ間違いないだろう。売上高131億円はグループ全体での売上高の1割を超える。人材ビジネスの2割がアマゾン向けということになる。売上高の大きさを鑑みると鳥栖の物流センターは単独で請け負っている可能性が高い。請負はクレームを含めて文字通り一切の責任を請け負う。失った際の痛手を含めてアマゾンが成長するほどにリスクも高まっていく。アマゾンとの関係は注視していくことが必要だ。
飛躍へ向けた業態変更はあるか
同社が昨年策定した中期経営計画では2021年の売上高は2,000億円。営業利益100億円。5年間の前半でコア3事業の拡大を行い。後半は既存の周辺領域と新領域で実現する計画だ。大手企業の中期計画のなかにはメッセージ性が高く数値目標は現実味に乏しいものも少なくない。
こうしたなかで16年12月期に終えた同社の前回の中期計画は売上高1,000億円の目標に対して943億円。営業利益は計画の50億円を超える74億円を叩き出した。中期計画は現実的に組み立てられていることがわかる。入口の間口を広げワンストップでものづくりなどの工程をカバーすることを強みに本業や周辺を中心に拡大していくと見られるが、人口減が確実ななかすでに大きなシェアをもつファクトリー分野に大きな伸びしろが期待できないのが実情だ。
ここで注目されるのが、買収した農村型テーマパーク(株)ファームの取り組みだ。16年に民事再生法の適用を申請し破綻した同社の事業を継承した。現在は赤城高原牧場や響灘グリーンパークなど9カ所の農業公園の運営管理を行ってきた。この4月からは北九州市立総合農事センターの運営を受託。既存3事業に次ぐ柱に育てる意欲がうかがわれる。
同社はAIが進化しても人材ビジネスに相応の需要は残るとの見方を示す。研究開発系事業に匹敵する、付加価値をつけにくい「ものづくり」事業に1万人の陣容を擁しているだけに軽々に悲観的な見解を示すわけにはいかないという事情もある。
こうしたなかで、農業公園事業など新事業が軌道に乗れば、同社自らが新しい雇用を創出することができるようになる。もともと雇用創出には意欲的で、「年齢性別にかかわらず活躍できる場がある」のが同社の強みだ。成功すると人材に関わるあらゆる事業への応用が可能となる。
俯瞰してみると同社は地場中小企業だったころから、自社商品である「人材」の特性を徹底研究していたことがわかる。ほかの人材派遣や業務請負業者を、人材を仕入れて販売する卸売業にたとえるなら、同社は差し詰め、製造業の領域まで踏み込んでいるといえる。原料調達力、付加価値向上、生産性や商品寿命延長に努め、創業25年で売上高1,000億円の一部上場に成長した。
そして今、農業公園管理の新商品強化によって、労働と雇用を同時につくりだす人材のSPA企業まで踏み込もうとしている。
(了)
【鹿島 譲二】<COMPANY INFORMATION>
代 表:伊井田 栄吉
所在地:福岡市博多区博多駅前2-1-1
設 立:1993年2月
資本金:7億6,800万円
売上高:(17/12連結)1,271億4,700万円関連キーワード
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