2024年11月22日( 金 )

福岡地所・榎本一族の「最大の資産」は受け継がれる独立独歩の精神(4)

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自ら道を切り拓く兄弟

 偉大な創業者・一二三氏と司氏からバトンを受け継いだのが、榎本一彦氏(現・福岡地所取締役会長)と榎本重孝氏(現・同取締役副会長)の兄弟だ。2人は、司氏の姉・和子氏とその夫・榎本重彦氏との間に生まれた。

 榎本重彦氏は、福岡相互銀行の常務から、日米コカ・コーラボトリング(現・コカ・コーラ ボトラーズジャパン(株))の専務として転出。後にコカ・コーラウエスト(株)代表取締役、福岡商工会議所会頭となる故・末吉紀雄氏に薫陶を授けた。

 兄弟は幼少の頃より、一二三氏の体験談を聞き、独立独歩の精神を学んだ。20歳ほど離れた伯父・司氏からはビジネスマンとしての実践的なノウハウを教えられた。

 一彦氏は、地場デベロッパー・福岡地所(株)の代表として、現在の福岡市にとってランドマークとなる大型施設、オフィスビルを次々と生み出し、福岡市の発展に大きく貢献している。

 「キャナルシティ博多」の開発では、予定地の近くにあった自動車販売会社の土地を手に入れるため、その会社の販売代理店を引き受ける。車の販売台数で九州一の成績を上げれば土地を譲るという約束をはたして土地を入手。その13年後に「キャナルシティ博多」を開業させ、福岡の代表的デベロッパーとしての地位を確立した。

 一方、重孝氏は、祖父・一二三氏の影響を受け、28歳でブラジルに渡り、14年半、現地で生活。現地法人の社長としてブラジル人と一緒に450万坪の山林を開拓し、道路、橋、住宅地などインフラ整備に注力した。そうした功績が評価され、ブラジルのある都市で市長候補にも名前が挙がるほど信望を集めたという。帰国後は、苦境が続いていた(株)九州リースサービスの経営を立て直し、成長軌道に乗せた。

時代へ継がれた「最大の資産」

 15年8月、福岡地所の代表取締役社長に榎本一彦氏の長男・榎本一郎氏が就任した。四島一二三氏のひ孫にあたる。一郎氏は、1974年8月生まれ。ラ・サール高校から東京大学法学部に進み、97年4月(株)日本興業銀行(現・(株)みずほ銀行)に入行。2001年5月に同行退職後、同9月にノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院に入学。MBAを取得後、03年9月、福岡地所に入社した。

 一郎氏のもと、福岡地所が手がけるのが、オフィスビル「天神ビジネスセンター」のプロジェクト。特区制度により、当初、高さ76mで計画されていたが、17年9月の航空法の緩和を受け、高さ約90mに変更した。2020年度の完成を目指し、すでに着工している。

 年に1度は時間をつくり、東京やシンガポール、ニューヨークといった世界の先進都市を訪れ、“外から福岡を見る”ことを心がける一郎氏は、再開発が進む東京と九州福岡の格差が開くことに危機感をもつ。一郎氏は、築年数の経った建物が立ち並ぶ天神地区を高層ではなくても高品質のビル群へ一新し、第3次産業が集積する業務空間がある都市へと脱皮させ、人件費が高く、地震リスクがある東京から福岡に機能を呼び寄せるという構想を描く。

 また、一郎氏の弟・榎本二郎氏(1978年生まれ)は、ニューヨークで約10年間、映像・アートを学び、独自の切り口で福岡を世界・アジアの都市へ飛躍させようと模索している。二郎氏は帰国後の2011年、ホームページ制作や映像制作、イベント企画運営などを行う(株)Zero-Tenを設立。プロジェクションマッピングによる数々の演出企画や、15年に世界文化遺産となった軍艦島(長崎市)のデジタルミュージアムのプロデュースを手がけた。16年12月には、「キャナルシティ博多」の近くに国内最大級のシェアオフィス・コワーキングスペース「The Company」をオープン。同施設は、17年12月、「福岡PARCO新館」の5階に2号店を開き、注目を集めている。

 福岡市中央区平尾霊園の入口近くに、1962(昭和37)年に一二三氏が作った墓がある。その墓には「四島家」の名前は刻まれていない。行員やその家族に不幸が訪れたとき、できれば分骨してこの墓に入れて欲しいという思いからだ。家名の代わりに記されているのは、一二三氏が日ごろから戒めとしてきた格言だ。それらの言葉に集約された一二三氏の精神が一族にとっての最大の資産なのかもしれない。

(了)
【山下 康太】

四島家の墓に記された格言

(東面)
「希望なきは死なり、満足は腐敗なり
 勇気なきは精神的死者なり
 一も努力 二も努力
 努力なくして家庭の繁栄なし
 平和なし 幸福なし」。

(西面)
「安心と自惚と油断は禁物
 心の弛みは強盗より恐い
 精神には常に武装せよ」。

(北面)
「堅持せよ 鉄の意思と火の精神力
 断行せよ 信念の前に不可能なし」。

(正面)
「祖先に対する最上の祭りは
道を守り業を励むにあり」。

 
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