2024年11月29日( 金 )

米国、6・12米朝首脳会談を中止 韓国の「仲介外交」は蚊帳の外(前)

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 米国のトランプ大統領が24日、6月12日に予定されていた米朝首脳会談を「現時点での開催は不適切」として中止することを決め、北朝鮮の金正恩委員長に書簡で通知した。北朝鮮の独裁者が米国の暴君から不興を買い、玄関払いされたかたちである。韓国の文在寅大統領は米朝の「仲介役」を任じたが、結局は、自らが「蚊帳の外」にいることを証明してしまった。

 金正恩の「非核化平和攻勢」は、すでに指摘していた通り、偽装工作である。今後の問題は、韓国の対北融和外交や中国の北朝鮮接近で緩んでしまった「対北包囲網」をどう構築し直すかである。北朝鮮の「完全非核化」に向けて、欧・米・日は改めて逆攻勢をかけなければならない。

 25日に朝鮮中央通信が伝えた金桂冠第1外務次官の声明は、北側の当惑感を「思いがけないことで、極めて遺憾」と表現した。トランプ大統領が首脳会談中止の理由とした「北朝鮮の怒りとあからさまな敵意」については、「一方的に核廃棄の圧力をかけてきた米国側の過度な言動が招いた反発に過ぎない」と苦しい言い訳を述べた。首脳会談が「どれほど切実で必要かはっきり示している」と、常にはない弱気の発言だった。

 この声明で「(米国は)対面に自信がなかった」と言及したのは、北朝鮮が相変わらずの「対南話法」を、無自覚に米朝対話にも使っていることの現れでもある。

 トランプ大統領の「首脳会談中止」発表は、北朝鮮豊渓里の核実験場廃棄式典の直後だった。この日、金委員長は北朝鮮東海岸の新設鉄道を視察しており、金委員長にとっても、会談中止は不意打ちであったと見られる。

 米国側によると、会談中止の決定は北朝鮮側の乱暴な対米非難に加えて、シンガポールで予定されていた米朝実務者協議に北朝鮮側が現れなかったことが、直接的な原因になったようだ。南北コリアの交渉では、北朝鮮側のドタキャン戦術は日常茶飯事だが、米国相手ではこの手法は通用しない。北の独裁者以上に、米国の暴君は予測不可能ということでもある。

 中止決断の直前に行われた米韓首脳会談は、トランプ大統領の文在寅大統領への「不信感」を見せつけるかたちになった。トランプ氏は訪米直前の文在寅氏に電話をかけ、「あなたの説明と北の言動とはズレがある」と問いただした。文氏の説得に納得いかなかったトランプ氏は、ワシントンでの米韓会談の冒頭で「(文氏の説明は)通訳しなくてもいい。これまでの話と同じだろう」と、記者団の前で言い放った。韓国メディアが「儀礼を欠く」と表現するほど、トランプの対韓不信感は露骨だった。

 板門店での南北首脳会談以降、朝鮮半島をめぐる国際情勢は金正恩の再訪中という事態もあって、かえってわかりやすくなった。中国が伝統的な「北朝鮮擁護」の姿勢に立ち返り、右往左往の半島外交を繰り広げた文在寅政権は、米国の不信感が増したということだ。

 今後、文在寅氏がどうするのかが焦点だ。

 板門店会談で金正恩評価論者が急増した韓国では、この週末に市民団体が合同で、トランプ批判集会を開くという。彼らは元からの北朝鮮シンパだ。文在寅政権の一連の対北融和外交が、試練に立たされているのは間違いない。

 24日夜、トランプ大統領の「会談中止」発表を聞いた文在寅氏は「当惑しており、非常に遺憾だ」と述べた。韓国政府当局者は「米朝首脳会談は99%開催可能だ」と公言していたのだから、そのショックは大きい。文在寅氏の顔色は、いつになく青ざめているに違いない。

(つづく)

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は「忘却の引揚げ史〜泉靖一と二日市保養所」(弦書房、2017)。

 
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