2024年11月25日( 月 )

昨今M&A事情(2)~富士フイルムHD、タダより高いものはない。米ゼロックスの買収は白紙に(後)

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タダで米ゼロックスを買収する奇策

 富士フイルムHDは18年1月31日、米ゼロックスの株式の過半となる50.1%を取得し、傘下の富士ゼロックスと経営統合させると発表した。統合後の社名は「富士ゼロックス」。創業110年を越える米国の名門事務機メーカーを、傘下に収めるという買収劇だ。

 古森氏は「富士フイルムグループとしては現金の外部流出は一切伴わない」買収スキームを「クリエイティブ」(独創的)だと自画自賛した。

 買収のスキームはこうだ。▽まず富士フイルムが米ゼロックスと共同出資する子会社の富士ゼロックスから75%(約670億円)の出資を引き揚げる。▽米ゼロックスが自社の株主に25億ドル(約2,700億円)の特別配当をしたうえで新株を発行。▽その新株を約670億円で買うかたちで米ゼロックスに50.1%を出資して経営権を握り、日米ゼロックスを統合する――という内容だ。

 TOB(株式公開買い付け)を実施して買収するには1兆円の資金がいる。それが「タダで手に入れる」と、古森氏は鼻高々だった。

 富士フイルムに都合の良い買収スキームに、筆頭株主の投資家カール・アイカーン氏と第3位株主のダーウィン・ディーソン氏が猛反発。「実質的にタダで経営権を握る詐欺的スキーム」(ディーソン氏)と買収に反対した。

親密メールに心証を害した裁判所

 富士フイルムHDが米ゼロックス買収に失敗する発端は、買収手続の一時差し止めを命じる4月27日のニューヨーク州上級裁判所の決定だった。日本経済新聞電子版(5月14日付)は、裁判所の決定文の内容を報じている。

〈「我々は共通の敵と戦う同じチームだ」。買収交渉中だった2017年11月、富士フイルムの買収交渉担当の幹部から米ゼロックスのジェフ・ジェイコブソン最高経営責任者(CEO)に、そんなメールが送られた。ジェイコブソン氏は「友と並んで立つ」などと返信。翌月には同氏からの「我々は使命をはたして勝つ」というメールに、富士フイルム幹部が「我々はあなた支えるよ、ジェフ」と返した。やり取りはほかのゼロックス経営陣も知っていたという。〉

〈(中略)バリー・オストラガー裁判官は、決定理由でこうした複数のメールを引用したうえ、ジェイコブソン氏らについて「自身の地位を守ろうとして富士フイルム側と協力した」などと認定し買収の暫定差し止めを命じた。「株主の利益に反して自己保身を優先させた」などと反発するアイカーン氏らの主張が認められたかたちだ。〉

 親密メールが裁判官の心証を害したようだ。買収手続は差し止め。その結果、買収推進派のジェイコブソンCEOら取締役は総退陣、大株主が推す経営陣に交代した。

 かくして、ホワイトナイトとして参戦した富士フイルムHDによる米ゼロックスをタダで買収するスキームは破綻した。1兆円が必要な米ゼロックスをタダで買収するとは、あまりに虫がよすぎる。M&Aの鉄則はこれ。「買収は自腹を切れ」ということだ。

(了)
【森村 和男】

 
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