【特別寄稿】豊洲市場の建築基準関係規定違反は時間の経過で適法になるのか!(前)
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(協)建築構造調査機構 代表理事 仲盛 昭二 氏
強引に豊洲市場の開場日を決めた東京都
東京都の豊洲新市場の開場日が本年10月11日と決まり、豊洲市場の施設内で習熟訓練など、市場の開場に向けた準備が進められている。小池都知事が就任直後に、豊洲市場の開場を延期して以来、さまざまな問題について議論が重ねられてきたが、これ以上、開場を遅らせられないという行政側の一方的な都合により、問題解決を棚上げにし、強引に開場に突き進むことが東京都の規定路線である。
私は、豊洲市場水産仲卸売場棟の構造計算(設計者:日建設計)に関して、建築基準関係規定違反であるという事実を指摘し、日建設計・東京都らに対し質問状を送付したが回答を得られなかったため、昨年11月21日、東京都に是正措置を求め提訴した。
この提訴は受理されたものの、提訴後4カ月を経過しても期日が決定されず、私は不審に思い東京地裁に問い合わせたところ「検討中」という返事であったが、その数日後、突然、「東京在住でなく原告適格がないので請求を却下」という判決が東京地裁から一方的に送付されてきて、「4カ月もかけて検討することなのか?」と驚いた。東京地裁が東京都に忖度したようなことはないと信じたいものである。
その頃、私が豊洲市場に関して東京都に是正措置を求める訴訟を提訴したことを伝え聞いた築地市場の仲卸業者や支援者から連絡をいただいた。約600社の仲卸業者の半数以上が豊洲への移転に反対であるが、大卸や組合との関係から、消極的ながら移転に従わざるを得ない業者が大半であること。しかし、断じて移転に反対している仲卸業者が少なからず存在し、移転を阻止する方法を模索していることを聞かされ、「ぜひ、仲盛さんの話をうかがいたい」と熱望され、4月14日、築地市場の移転に反対する方々の集会に招かれ、約1時間の講演を行った。会場は熱気にあふれ、参加者たちの強い思いを感じた。
豊洲市場の建築基準関係規定違反
豊洲市場については、「有害物質の残存」「区画や通路が狭く使い勝手が悪い」「衛生管理を掲げながら搬入口が雨ざらし」など、敷地そのものや設計上の不具合が多々指摘されてきた。これらの問題は、市場機能を左右するほどの大問題であるが、使い勝手の悪さを以って、それが違法という訳にはいかない。有害物質が基準値を上回っていることは間違いないと推測されるが、調査日や調査位置、調査方法によって数値が一定でないという不安定な側面もある。ピンポイントで調査した結果が、たまたま基準値を下回っていることもあり得るからである。
私が指摘していることは、建築構造技術者の目線で見て、日建設計による構造計算の内容が、明らかに建築基準関係規定に違反しているという、単純な指摘である。それは下記の3点である。
(1)保有水平耐力計算におけるDs値(構造特性係数)の偽装
(2)柱脚の鉄量が必要鉄量の規定を満足していない(鉄量が44%不足)
(3)層間変形角が建築基準法施行令第82条の2に違反これらの点について、日建設計と東京都に対して質問をしたが回答がなかったことは前述の通りであるが、マスコミの取材に対しては簡単な回答があった。
(日建設計からの回答)
ご指摘に対しては、2016年10月25日の第2回市場問題プロジェクトチーム会議での弊社提出の参考資料(PDF、9頁目参照)で示した通りです。
また、2016年12月28日付で、東京都建築主事より、豊洲市場の全街区について「建築物およびその敷地が建築基準関連規定に適合している」(建築基準法第七条五項)ことを証する文書である「検査済証」が交付され、建築基準法に基づく構造安全性が確認されました。 これらのことより、豊洲市場の建物は合法で適正な設計がなされていると認識しています。日建設計は、「2016年12月28日付で、東京都建築主事より、豊洲市場の全街区について『建築物およびその敷地が建築基準関連規定に適合している』(建築基準法第七条五項)ことを証する文書である『検査済証』が交付され、建築基準法に基づく構造安全性が確認された」と回答している。
検査済証は、設計図面が適法に作成されているという前提(建築確認や計画通知が適切に行われたという前提)で実施された完了検査において、図面と現場の施工状況を検査した結果に基づき交付されるものであり、設計の不具合を認識していない東京都が完了検査を行う際、構造計算のチェックをするわけではないので、図面と現場が一致していれば、検査済証は交付されるのである。ちなみに、あの姉歯関係の物件でさえ、すべて、検査済証が交付されているのである。この事実を前に、日建設計の説明が「ごまかし」「すり替え」であることは明らかである。
(東京都市場整備課からの回答)
計算の細かいところまでは見きれません。計算式などはわからないが、都は施工主の立場なので、(別の部署だが都の)認証が出たということで、都としても安全性に問題ないと判断しました。
認証には、ちゃんと構造計算がされているかがチェック項目に含まれており、信用しています。
仲盛氏の指摘は把握しており、考え方の1つとして受け止めますが、日建設計にも確認をとって、計算の考え方も問題ないといわれています。東京都市場整備課からの回答を見る限り、「東京都の認証(検査済証)が出たから問題ない」という無責任な回答である。先に述べたように、完了検査では構造計算書のチェックを行うわけではない。東京都の審査能力が欠如していたために、日建設計による構造計算書の意図的な偽装が見逃され、構造上、建築関係規定に不適合な建物が建設されてしまったのである。
市場問題プロジェクトチーム(PT)の議事録を見ると、荷重設定などの設計のミスがあったことを日建設計も認めている。設計ミスの存在がPTの記録に残っているにもかかわらず、東京都市場整備課が「認証には、ちゃんと構造計算がされているかがチェック項目に含まれており、信用しています」と回答しているのである。設計者がミスを認めているのに、「認証」「チェック項目に含まれている」「信用している」などとコメントしている市場整備課の職員には、都職員としての責任感やプライドは皆無と断じざるを得ない。
すでに建設され、「土壌汚染」や「設計の不具合」などが国を挙げての問題となっている現状において、「日建設計の構造計算に問題があった」と声を上げることができる東京都職員など存在しないのが実態であろう。
しかし、このような都民を裏切る行為が正当化されるのであれば、東京都の行政は健全に機能せず、今後起こり得る有事に対して、誰が責任をもつというのであろうか。
(つづく)
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