2024年11月24日( 日 )

「子ども食堂」に独居高齢者がいっぱい(前)

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大さんのシニアリポート第67回

「ぽかぽか広場」の看板

 「子ども食堂」が広がりを見せている。今や全国に2,000カ所以上。「子ども食堂ブーム」ともいえる。「資金や人材、食材の調達、地域との連携―。さまざまな課題に直面したとき、相談したり、自治体や企業などにつないでもらったりする『中間支援組織』が活動し始めています」(「朝日新聞」2018年6月4日)と「子ども食堂」をバックアップする組織まで登場した。ただ、「子ども食堂」の数を増やすことにばかり目がいきやすいことに違和感を覚える。「子ども食堂」が急増した背景には、「子どもの6人に1人が貧困」という経済的背景があることを忘れてはならない。同時に、「子ども食堂」に、独居高齢者が加わり始めたことに注目したい。

 運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下、「ぐるり」)も、昨年2月から月2回(第2・4木曜)、市の社会福祉協議会の支援で「子ども食堂」を始めた。当初は2家族7人の子どもに食事を提供することからスタートした。
 食事をつくるボランティアが3~4人。食事後の勉強や遊びを手伝う大学生(福祉関係の部のある大学)も加わるので、14、5人が携わることになる。ところがここにきて、子どもが15人に急増した。独居高齢者も3人加わり、総勢30人を超す。「ぐるり」のキャパは飽和状態だ。
 場所を提供しているという立場の私ではあるが、利用者が帰った後に室内の点検を済ませてから閉めることになるため、帰宅は毎回午後9時ごろ。心身ともに疲れ果てる。でも、大学生を含めたボランティアや利用者の満足顔を見るたびに、内心ほっとするのも事実。振り返ってみると、「子ども食堂」オープンの必要性についてはその萌芽というべきイベントを開いていた。

食事見本

 2013年12月15日、足立己幸(女子栄養大学名誉教授)氏の講演会「65歳からの共食」を自主開催した。氏は「(老いも若きも)共食は食事のバランスを良くし、高齢者の心身の健康を促し、地域の元気にもつながる。孤食はその逆」「孤食ではなく、みんなで食べること」の重要性を述べられた。
たしかに独居者には、年齢には無関係に食事の内容に問題が多い。近くにあるスーパーから出てくる顔見知りの独居高齢者のレジ袋には、インスタント食品か総菜の包み紙しか見えない。「高齢だから粗食でいいの」「一日一食で十分。だっておなかが空かないの」という常連客もいる。彼女の場合、買い物はすべて毎日同じ総菜。サプリメントで栄養を補っているといい、「サプリは栄養補助食品だ」といっても聞く耳をもたない。
 熊谷修(人間総合科学大学)教授は、「高齢者ほど肉などの動物性タンパク質を十分に食べるべき」「1日10品目をまんべんなく食べることを目標とすれば、面倒なカロリー計算やバランスを考えなくとも、自然に栄養状態は改善する。食事にバラエティがない高齢者ほど、その後5年間で知的活動や社会活動が低下した」(「朝日新聞」2013年9月15日)と説く。「宅配の弁当は量も多く飽きて残すことが多いので、最低限のおかずだけにして、炊飯と味噌汁は自分でつくる」と前向きに語る利用者もいるが少数だ。
 最近、常連の独居高齢者から、「孤食は粗食につながり、不安です。子ども食堂で食事をいただけないでしょうか」という声が出はじめた。支援する社協の担当者と相談。「プチ・ボランティアというかたちで参加していただけるなら」という条件で受諾した。“プチ”とつけたのは、食事づくりは体力的に無理なので、テーブルを拭いたり、お茶を汲んだりする軽作業を担当する。ボランティアの1人に含まれるので問題なしとなる。建前は「子ども食堂」なのでこうした“裏技”は必須となる。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 

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