2024年12月27日( 金 )

世界で競争が激化する五感の活性化研究と日本的な『香り』のニュービジネス(前)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 人工知能(AI)の活用がいたるところで注目を集めている。たとえば、AIロボットがおいしい料理を素早くつくってくれる。ラスベガスではシェフロボットの導入が進み始めたため、人間の料理人が職を奪われることを心配してストライキに突入したほどである。このシェフロボットは人間の料理人の10倍のスピードで1日24時間働いてくれるとのこと。

 また、ニューヨークではAI弁護士が正規の資格を取得し、法律事務をバリバリこなしている。何しろ過去の判例に関する記憶は正確この上ない。こちらも休憩時間も取らず、365日モーレツに働いてくれる。まだ、そうしたAIロボットは少数派だが、このまま行けば、まさに「AIが人間を凌駕する時代」が到来するに違いない。中国では理想の花嫁ロボットと結婚した男性エンジニアも登場した。

 そんな中、AIの新たな活用法が話題を呼んでいる。それは人間の吐く息を分析し、ガンなど病気の早期発見に結び付けるというものだ。本来、動物が種の保存のためにもっている嗅覚機能に着目した研究である。今でも警察犬が空港などで麻薬や危険物などの探査業務に携わっているが、彼らの嗅覚は人間を寄せつけない。とはいえ、本来、我々人間にも、危険から身を守るために1万種類を超える匂いを嗅ぎ分ける能力が備わっていたはずである。

 そこで、エジンバラがんセンターでは、がん患者の発する息のサンプルを収集し、息に含まれる化学物質の分析を重ねた。そうした膨大なデータから、人間の吐く息と、がんやそのほかの病気との因果関係を明らかにできるようになったというわけだ。そうしたビッグデータを搭載したAIドクターの登場によって、簡単に病気の診断ができるのである。たしかに、人間の吐く息や、くしゃみなどから、体調の良し悪しを判断できるという人はいるだろう。しかし、そうした能力を極限まで高めるうえでAIの登場は強力な助っ人といえる。

 実は、このところ世界的に人間の感性を高めようとする研究が活発化してきている。かつてインターネットを開発したアメリカの国防総省傘下の「国防高等研究計画局」(DARPA)では脳の視床下部に存在する神経細胞が生み出す「オレキシンA」と呼ばれる神経ペプチドに着目し、「兵士が最高レベルの体調を維持しながら作戦遂行が可能になる」ための添鼻薬の研究開発を進めている。こうしたオレキシンをスプレー化した薬を吸引すれば、睡眠が不要となり、人間の活動時間が一挙に拡大するとの触れ込みだ。

 こうした研究を長年にわたり主導している組織がDARPAである。宇宙開発でソ連に遅れをとった、いわゆる「スプートニク・ショック」をきっかけとし、1958年に設立された。「戦場におけるアメリカ軍兵士の技術的優位性を維持する」のが課せられた使命である。まさにSFの世界を現実のものにするため、日夜、研究者たちが凌ぎを削っている。

 その最大の眼目は兵士の肉体的能力の飛躍的向上と判断力の強化にある。コンタクト・レンズにしても、衛星や無人偵察機からの情報を受信できるような工夫が施されたものを開発した。また、必要に応じて、遺伝子レベルでの人体改造にも意欲的に取り組んでいる模様である。

 具体的には、兵士の脂肪分をエネルギーに転換させることで、戦闘中は何日でも食事が要らないようにする。これが可能となると、重たい携行食品をもち運ぶ必要もなくなり、兵士の行動範囲や戦闘能力が飛躍的に向上するだろう。

 さらなる研究が進んでいる分野が人体蘇生技術である。戦闘中に失った肉体の一部を再生させるというもの。すでに事故で指を失った子どもたちの場合には、その再生手術に成功しており、成人の戦闘員に応用できるものか、その実験が進んでいるとのこと。こうした研究の成果は戦場に限らず、広く一般社会でも生かされるはずであり、その実用が待たれるところだろう。とくに、体内の脂肪をエネルギーに変える技術は、肥満体質に悩む人々やダイエットに苦労する方々にとっては朗報となるに違いない。
思えば、インターネットにしても、その端緒は米ソ冷戦時代に遡る。ソ連から打ちこまれたミサイルによって米本土の軍事施設が破壊された場合を想定し、残された軍事拠点が素早くコンピューターでつながり、反撃できる体制を組み立てるのが当初の狙いであった。それが今では我々の日常生活になくてはならない通信情報インフラとなっている。バーチャル・リアリティ(仮想現実)もGPS(全地球測位システム)も同様である。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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