シシリー島便り・日本人ガイド、神島えり奈氏の現地レポート~パレルモの地下水路とマフィアの歴史(前)
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昼間はビーチ、夜はオープンエリアでジャズなどの生演奏が星空に響くパブやレストランに人混みが溢れる。シシリーは一年のなかでも海外からの観光客で最も賑わう夏の季節がムード満点だ。最高気温は30℃近く、ギラギラした太陽が打ちつける真っ白な石づくりのシラクーサの大聖堂広場は、サングラス無しでは目を開けていられないぐらい眩しい。だから、まるでワイン貯蔵庫のなかのようにひんやりと涼しい地下にモグラのように逃げたくなってしまう。
今回はパレルモの地下について話してみる。パレルモの地下にはペルシャ文明に起源をもつ「カナット」と呼ばれる地下用水路が張り巡らされている。造られたのは9世紀イスラム支配の時代だ。地下20mから30mほど掘ると、そこには透明度の高い濾過された水が流れている。
アラブ人たちは当時、最先端の技術をこの島に導入した。用水路は生活するうえで大変重要である。このカナットは現在、あらかじめ連絡しておけば、一部を見学させてもらえる。私も13年前の7月に見学をさせてもらった。頭には安全ヘルメットをかぶり、係員がスイッチを押すと、ヘルメットの上のキャンドルに火がついた。さらに、胸まである専用ゴム服を服の上から着用する。少しドキドキした。
準備が整うと、係員が、狭く真っ暗で、覗きこんでも奥が見えない穴へとハシゴをおろした。案内人と一緒に少しずつハシゴを降りていく。すぐに地上との気温・湿度の差を感じた。足場を確保し、案内人が懐中電灯の光で周りを照らしてくれる。ゆっくりと水温12度ほどの真水に足を踏み入れていく。水は胸の高さまである。場所によって違うがだいたい、1mから1m20cmほどの深さだ。もちろん当時は、飲料水、生活用水などに使われていたため、横壁には所々高い位置に手をかけられるような窪みがある。これらは当時、水が汚れないように、地下で作業を行うものが、足置き場にするために造られたのだという。
地下水路の幅は、人が1人通れるかどうか。高さは1mほどで頭を下げないと通れない所もある。突然、頭のうえに何かが当たって驚かされる。木の根が地下に伸びてきているのだ。歴史を感じられ、暑い夏の季節におすすめの体験だが、閉所恐怖症の方、妊娠中の方にはお勧めできない。
16、17世紀、貴族たちは真夏の暑さをしのぐために、屋敷の地下を掘り、石づくりのまるで洞窟のような地下部屋で、涼をとっていたという。そこには、石でできたイスとテーブルもあったそうだ。
シシリーには「シロッコ」といわれる熱風が吹いてくる。もともとシリア方面から吹くことでシロッコと呼ばれるのだが、現在では西へ移動し、アフリカからも砂が混ざったシロッコが吹いてくることが多い。貴族たちはこのシロッコが吹くたびに、地下部屋で過ごしたとされ、カメラ(部屋)デッロ(の)シロッコと呼ばれた。
旧市街マクエダ通りから裏路地を進んだ場所は1400年代のユダヤ教徒の地区だった。そこにパラッツォマルケージという屋敷が残っている。現在建物は、市立図書館として使われている部分があるが、屋敷の入口は閉まっている。この屋敷の地下にも、部屋がある。ユダヤ女性が体を清めるため、妊娠中、あるいは生理後に、この地下水で体を洗っていたといわれる。さらに奥へ進むと、太陽の光が差し込む大きな空間が広がる。そこはシロッコの部屋として使われた場所だが、その後、戦争の際、亡くなった兵士たちの遺体も放り込まれていたともいわれている。
(つづく)
<プロフィール>
神島 えり奈(かみしま・えりな)
2000年上智大学外国語学部ポルトガル語学科を卒業後、東京の旅行会社に就職。約2年半勤めたのち同社を退職、単身イタリアへ。2003年7月、シシリー島パレルモの旅行会社に就職、現在に至る。関連記事
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