2024年11月29日( 金 )

有機ELパネル市場にも中国の脅威(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 有機ELが有望視されているもう1つの市場は大型テレビ市場である。2000年代の前半までは、テレビ市場は日本企業の独壇場であった。ところが、デジタル時代の到来とともに、韓国企業が躍進し、過去10年間テレビ市場の世界で1,2位を占めていたのは、サムスン電子とLG電子であった。

 このテレビのプレミアム市場で、有機ELディスプレイは大きく成長している。まだLCDディスプレイで対応しているサムスンは市場シェアを徐々に落としている反面、LG電子を始め、ソニー、パナソニック、東芝などは有機ELテレビで台数を伸ばしている。昨年第四半期の販売台数を見ると、LCDテレビが4,450台販売されたのに対して、有機ELテレビは28万台販売されている。有機ELテレビが成長したといっても、まだ台数は少なく、本格的な成長はこれからだろう。高価だった有機ELテレビは最近価格も下がっており、今後有機ELテレビがもっと普及していくのは間違いない。

 ところが、韓国企業の強みの1つであったディスプレイ市場が中国企業の猛追撃によって市場に地殻変動が生じつつある。有機ELはLCDに比べて、技術の参入障壁が高く、韓国は中国より5年ぐらい進んでいるとされていた。ところが、中国企業は有機ELにも力を入れ始め、LCDと同じようなことが繰り返されるのではないかと韓国企業は対策に腐心している。

 中国のチャイナスター(CSOT)はテレビ用10.5世代の有機ELパネルを生産する工場を建設するため、67億ドルを投資すると発表した。量産は2021年から開始するとのこと。チャイナスターはパネルを生産し、親企業であるTCLに納品する。もっと驚くのは、パネル製造に韓国企業も成功できなかったインクジェットプリント方式を採用するという。インクジェットプリント方式とは、板に有機EL溶液を吹き付けてパネルを生産する方式。韓国企業が採用している真空蒸着方式に比べ、効率が良く、難易度の高い技術のようだ。

 LGディスプレイもパジュ(坡州)に10.5世代の有機ELパネルの量産計画をもっているが、量産時期はチャイナスターとほぼ同時期になる。大型ディスプレイで世界トップだったLGディスプレイは9インチ以上の大型ディスプレイ市場では、すでに中国のBOEに首位の座を明け渡している。そのようなことがまた有機ELでも起こるのではないかと韓国ディスプレイ業界は戦々恐々している。

 それだけではない。中国のディスプレイの首位企業であるBOEは青島に来年に量産開始を目標に5兆ウォンを投資し、有機EL工場を建設している。さらに、BOEはアップルのiPhoneにフレキシブル有機ELの供給を推進しているという話があり、驚きである。もちろん、技術的にはまだ韓国製品に劣るが、自国の技術と製品を重視する中国政府の政策を考えると、中国企業は韓国企業に大きな脅威になり得る。中国政府は2025年まで先端製品分野で部品の自国生産を目指している。

 ディスプレイは情報通信社会の到来で社会インフラに欠かせない重要な部品である。中国政府は液晶ディスプレイで韓国にキャッチアップしたことに自信を深め、次は有機ELに狙いを定めている。有機ELもLCDの二の轍を踏むことになるのか、もう少し様子を見る必要がある。有機ELパネル市場にも中国の足音が聞こえているわけだ。

(了)

 
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