2024年11月16日( 土 )

柳井正氏が吠えた「このままでは日本は滅びる」(前)

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柳井正氏は日本一の大富豪である。米経済誌フォーブスの「日本長者番付2019」によると、日本人のトップはカジュアル衣料のユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長で、資産額は2兆6776億円。その柳井氏が吠えた。「このままでは日本は滅びる」。

日本は発展途上国に転落する

 『日経ビジネス』電子版(2019年10月9日付)の「目覚めるニッポン」シリーズに登場した柳井氏は、「このままでは日本は滅びる」と日本人にハッパをかけた。政治的な発言を控える経営者が増えるなか、柳井氏は直言をやめない。歯に衣着せぬ物言いは、柳井氏の真骨頂だ。企業経営から政治までの大改革の必要性を説く。

 〈最悪ですから、日本は。
この30年間、世界は急速に成長しています。日本は世界の最先端の国から、もう中位の国になっています。ひょっとしたら、発展途上国になるんじゃないかと僕は思うんですよ。
 国民の所得は伸びず、企業はまだ製造業が優先でしょう。IoTとかAI(人工知能)、ロボティクスが重要だと言っていても、本格的に取り組む企業はほとんどありません。あるとしても、僕らみたいな老人が引っ張るような会社ばかりでしょう。僕らはまだ創業者ですけど、サラリーマンがたらい回して経営者を務める会社が多い。
 起業家の多くも上場して引退するから、僕は「日本の起業家は引退興行」と言っています。今、成長しているのは本当の起業家が経営している企業だけです。
 結局、この30年間に1つも成長せずに、稼げる人が1人もいない。稼げる企業が1社もない。いや、1社あるかもしれないですけど、国の大きさからいったらあまりにも少ないし、輸出に依存していてグローバルカンパニーになっていない。稼いでいる人がいなかったら家計は成り立たないでしょう。30年間、負け続けているのに、そのことに気付いていません〉

議員も官僚も半分にせよ

 そして、こう提案する。国の歳出を半分にして、公務員の人員数を半分にせよ。参議院も衆議院も機能していないので一院政にせよ。

 安倍政権への批判も臆することなく展開している。「アべノミクス」で成功したのは、株価だけ。それ以外に成功したものはどこにもない。米国の属国にならないために、憲法改正より日米地位協定を結べ、と。

 企業経営者にも批判の矛先を向ける。

 〈今や企業が世界中で人材獲得の競争をしている中で、日本だけ遅れている。
技術についてはもう完璧に2周遅れ。でも自分たちは先行争いをしていると思っているでしょう。世界の現実を知りません。経営者自身が勉強していないことと、海外に行っていないからです。
優秀な外国人を採用するためには、人事や報酬の制度を抜本的に変えないといけない。日本企業の報酬に比べると、中国や欧州の企業はだいたい2~3倍、米国企業だと10倍くらいの高い水準です〉

 日本の政界・官界・財界のエスタブリッシュメントを一刀両断だ。

日本はポルトガルのようになる

 ベンチャー起業家の柳井正氏は、いつから“憂国の士”に大変身したのだろうか。

 2011年3月11日の東日本大震災が転機になったと考えられる。

 それ以降、日本とポルトガルを対比して語ることが多くなった。

 〈私は最初、「日本はポルトガルのようになる」と、そう言っていました。かつてポルトガルには大航海時代があり、日本にはジャパン・アズ・ナンバーワンと言われる時代がありました。
 日本は、なんとかポルトガルのようにギリギリの状態ですが、その状態を維持できるのではないかと思っていましたが、どうもそれすら難しくなっているんじゃないかと思います。ギリシャのように破綻してしまう可能性すらあるんじゃないかというのが現状です。
 今の日本は、ゼロ金利、マイナス金利です。これは金融を否定しています。金利がマイナスということは、お金の計算やっても無駄だということでよね、これ〉(「公認会計士制度70周年記念講演会」(2018年7月23日)より)

 なぜ、日本の現状を説明するのに、ポルトガルなのか。
 ポルトガルは、日本にとって馴染み深い国だ。大航海時代にポルトガルは積極的に海外に進出。1543年、種子島に漂着したポルトガル商人による鉄砲伝来は、かならず教科書に出てくる。フランシスコ・ザビエルが日本を訪れ、織田信長の庇護のもと南蛮貿易を開始した。南蛮人とはポルトガル人のことだ。
 ボルトガル由来の言葉は数多く残っている。パン、コップ、ボタン、タバコ、金平糖など。長崎名物のカステラもポルトルガルがルーツだ。

(つづく)
【森村 和男】

(後)

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