2024年05月11日( 土 )

WF再開発への提案、北天神・長浜に「界隈」を(前)

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「海辺を使ったライブショーをつくる」イメージ(しながわ水族館公式HPより)
「海辺を使ったライブショーをつくる」イメージ
(しながわ水族館公式HPより)

 博多は、全国屈指の好漁場である玄界灘を擁した生産地機能と、福岡都市圏を背景とした消費地機能の二面性を有する、全国で類を見ない特性をもった港湾都市といえる。博多港は中国の沿岸都市や韓国など東アジアの都市とも行き来しやすい位置にあり、九州内の外国貿易で使用されるコンテナ取扱量の半分を占めている。24時間コンテナを扱うアイランドシティ、香椎パークポートのコンテナターミナルをはじめ、自動車などさまざまな荷物を扱う箱崎ふ頭、石油が集まる荒津地区、鮮魚の長浜地区、穀物の須崎ふ頭、ガスの貯蔵タンクがあり建設資材が運ばれる東浜ふ頭、中央ふ頭には全国有数の国際旅客ターミナル「博多港国際ターミナル」と「中央ふ頭クルーズセンター」がある国内屈指の交易の拠点だ。

 福岡市の中心地と近距離にある港湾機能。海と近い位置にあるその特異な地理環境は、水辺のまちづくりに活かされているだろうか。今回、北天神/長浜を通してウォーターフロント再開発の可能性を模索してみたい。

賑わい減った長浜の屋台

 長浜の屋台は、1955年に福岡市中央卸売市場鮮魚市場(長浜鮮魚市場)の開場とともに誕生し、当初は市場で働く人のためにあった。忙しい男たちがあわただしくかきこむため、湯がきやすい「細麺」が、手っ取り早く腹を満たすための「替え玉」がここで生まれた。その後、中洲の酔客が「最後のシメ」で立ち寄るようになり、やがて観光名所になっていったが、今その屋台文化が存続の危機にある。営業しているのは1軒か2軒あるかどうか。風前の灯火だという。

 福岡市は2016年以降、長浜地区に参入を呼びかける公募を3度実施したが、候補者が辞退するなど営業開始には至らなかった。今でも「長浜を含めて天神、中洲地区も公募に向けた作業を進める予定」とあきらめていないようだが、参入希望者を選ぶ市の選考委員会の1人は「今までのやり方で、長浜を選ぶ人は出てくるだろうか」と疑問視する。閑散とした今の長浜で、新規参入するにはリスクが大きいからだ。

 JR貨物が再開発を検討している福岡市中央区長浜1丁目―ざうお天神店や天神ゆの華の跡地(約3,000坪)は、天神方面からアプローチしてくると長浜地区へ入る導入部分に当たる。この場所、長浜の屋台文化継承のために、一肌脱ぐことはできないだろうか。

国土交通省「港湾統計(年報・令和3年)」より
国土交通省「港湾統計(年報・令和3年)」より

 那の津通り沿いにそびえ立つ海側のビル群は、断崖絶壁のように長蛇に連なり、一群の壁になって海側の潮風を遮っている。唯一この敷地だけが開かれ、南側に口を開けている。エリアの分断を和らげるこの場所の役割は天神経済圏との橋渡しができる唯一の関所、影響力をもてる大きな可能性を秘めているように思う(ただし、目の前の那の津通りを渡れないので、東西に振り分けられた横断歩道に迂回しなければならない点は、この敷地へのアプローチを妨げている残念な点だ)。

 どうしたらこの場所に足を運んでくれるようになるか、もしくは地域の発展に寄与できるだろうか。博多を代表する屋台というコンテンツを残す“文化継承”を旗手に、観光資源として長浜の立地とブランドを生かす提案ができないだろうか、と人知れず思考をめぐらせてみたい。

天神界隈のデッドスペース

 敷地の北側を走る長浜1449号線は、中央卸売市場鮮魚市場の経済圏で連なる群居の専用道路と化しているため、人通りは少ない。大型トラックや鮮魚を積んだ関係車両の往来は目にするが、中心街から近距離にありながら、博多湾との関連性が断ち切られているこの構造と、街の外れの資材置き場のような静けさを感じ、落胆してしまうのは私だけだろうか。

 長浜の中央に位置する鮮魚市場も、少し東側ではあるが那の津に建つ福岡競艇場も海側に向けて開かれていて、天神中心街から見ると建物の背中側が見える構図。だからその手前にこちら向きにビル群を配し、街方面へは表の顔を繕うとする。ちょうど背中と背中を突き合わせたような場所に長浜の中心部、1449号線はあたる。そこに裏側という空気感が生まれてくるのだ。いわば、外側と外側で挟まれた疎外空間といった感じだ。

 県立美術館のある須崎公園、福岡競艇から都市高速高架を潜って長浜の入り江界隈、水辺沿いの倉庫街―この一帯のウォーターフロントエリアが、すこぶるポテンシャルの高いエリアだと感じるのは、私だけではないだろう。「面白いエリアリノベーションができるのでは」と人知れず妄想を膨らませているが、ここの提言はまた別の機会へ譲りたい。

(左)長浜の屋台 福岡市公式シティガイド・よかなび(2020年8月)より ​​​​​​​(右)福岡市鮮魚市場市場会館
(左)長浜の屋台 福岡市公式シティガイド・よかなび
(2020年8月)より
(右)福岡市鮮魚市場市場会館
(左)那の津通り沿いにそびえ立つ海側のビル群
(右)北天神の再開発地

「場の産業」を生み出す

 ショッピングモールは、テクノロジーとデータによって構築されたアーキテクチャをシェルター(建物)でパッケージした空間である。そうした空間の設計において、もはや建築家が関与できる場面は少ない。ショッピングモールは自宅→車→モールという「室内空間」の連続的な移り変わりで、もはやモールの外観など意識にすら上ってこない状態だ。

 再開発の手法として、「箱の産業」から「場の産業」へ今後は大きくシフトしていくだろう。「箱の産業」とは、建物や建築物が主体の建設産業。「場の産業」とは膨大な数のストックを、人々が楽しく豊かな生活の場として仕立て直し、組み立て直す新しいアプローチの仕事といえるかもしれない。今後、空洞化していく都市においては、その穴あき現象に対する“別解”が必要になってくるが、そこにヒントがあるように思える。

 ある特定の地域の「活性化」を考えるとき、そこに新しく何かをつくるのではなく、人が集まる仕組みをつくることを「場の産業」と呼ぶ。

(左)長浜1449号線は背中と背中を突き合わせたような場所(右)ライフラインが用意されている屋台ステージ
(左)長浜1449号線は背中と背中を突き合わせたような場所
(右)ライフラインが用意されている屋台ステージ

場所づくりに必要なアイテム

 端的にいえば“場所づくり”。空間が比較的アノニマスな専門家によって設計され、つくられ、運営されているのに対し、場所は顔の見えるメンバーがひざを突き合わせて運営する。そこには時にさまざまな専門家が加わるが、彼らはみな「顔の見える専門家」だ。

 そのとき、場所づくりの実践には、プレイヤーの存在が欠かせない。プレイヤーの理想を物理的な場所として具現化するのが、その地域を良く知っている街場の建築家(活動家)の役割だ。つまり、企業や工場の誘致ではなく、「人」の誘致がその街の発展を方向づける。必要なアイテムは、①面白いものが生まれるような環境をつくるという仕掛け、②人の存在(手足ではなく脳を埋め込む)、そして③拡散だろう。つまり、ソフト面では「①=アイデア」と「②=プレイヤー」と「③=連続的な動員」が重要ということだ。

 ハード的なアプローチでは、エリアリノベーションという手法が望ましいと考える。面白い街をつくり、界隈を生み出す。そうした街並みと賑わいを見るために世界から人々が来る、そうなって街の成長は拡散していくのだ。

*画像6

(左)場の産業例:人口増加率NO1の千葉県流山市の流儀
(公式HPより)
(右)場の産業例:年間300万人を森に集める ・
ラコリーナ近江八幡(「新建築」紙面より)

(つづく)


松岡 秀樹 氏<プロフィール>
松岡 秀樹
(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

(中)

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