2024年05月21日( 火 )

「ウッドチェンジ」へ、山佐木材のCLT供給網(後)

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山佐木材(株)
福岡営業所所長 宇田 光一郎 氏

 建築物の「ウッドチェンジ」(木造・木質化)の動きが、公共だけでなく、民間の建築物、なかでも中高層ビルにもおよぶようになってきた。その構造体として主に活用されているのがCLT(※)と大断面集成材で、山佐木材(株)は九州を代表する構造用集成材メーカーである。そこで同社の福岡営業所所長・宇田光一郎氏に、中大規模建築物の木造・木質化の現状や、今後のさらなる普及に向けた課題などについて話を聞いた。

※CLT=Cross Laminated Timberの略。JAS(日本農林規格)では「直交集成板」と呼称。ひき板(ラミナ)を繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料

設計・施工の体制確立も重要

山佐木材(株) 福岡営業所所長 宇田 光一郎 氏
山佐木材(株)
福岡営業所所長 宇田 光一郎 氏

    ──御社では建て方にも対応しているとのことですが、これはどのような体制によってでしょうか。

 宇田 建て方とは建物の構造材を組み立てることを指しますが、CLTは新しい建築技術ですから、同じ木造・木質素材とはいえ大工さんでも対応が難しいですし、鉄骨のとび職人の方でも同様です。そのため、当社から各施工現場に派遣しています。いろいろなケースがあり、技術やノウハウを身に付けた当社周辺にある工務店の方々に協力をいただいたりすることもあります。ですので、建て方までをすべて取り仕切ることができる元請会社をつくり増やすことも、これからの課題の1つと位置づけられます。

 同様のことが設計面にも当てはまります。仮に建築主が木造ビルを建てたいと考えて設計士に依頼しても、それを現場施工にまで展開できる設計士が圧倒的に少ないのです。これについても昨年、福岡県の建築士会の方々を対象に、CLTに関する勉強会を開催させていただきました。どのような仕組みで建て方にまで進むのか、などといった内容です。技術研究所などがあるスーパーゼネコンは自社で研究開発を行い設計が可能ですが、今後、CLTによる建築物を増やしていくためには、このような地域の設計士の方々の設計力を高める取り組みが欠かせないと考えています。CLTや構造用集成材に限らず、とくに九州の建築物は鉄骨造、RC造への依存度が高い状況ですので、その状況を変えるために当社を含めた川下の事業者との意思疎通を密にして協力することが求められているのです。

供給体制の拡充へ 他社との協力も模索

 ──川上、川下についてはいかがですか。

 宇田 当社では鹿児島と宮崎、熊本を中心に木材を調達していますが、案件によっては各県の地産材を使用するようにとの指定があり、それ以外の地産材を調達するケースがあります。ただこの場合、トラック輸送の経費が上積みされるため、CLTの製造コストが高額になってしまいます。各県の製材業者さまが各県産材でCLTを構成するラミナ(引き板)を製造し、当社に輸送していただき、それを鹿児島の当社でCLTを製造・加工し、産地出荷証明を付けて各県に戻すというスキームが構築できれば、各県におけるCLT建築物のコストを低減することができると私たちは考えています。

CLT製造ラインの様子。機械はイタリア製
CLT製造ラインの様子。機械はイタリア製

    そもそも九州には大規模なCLT・構造用集成材生産工場が鹿児島にしかなく、生産のボリュームが限られ、それがCLT建築物普及のネックとなっています。理想を申し上げると、九州の北部と中部にあと2カ所、同規模の工場があればと考えています。その実現へ向け、工場を開設・運営してくださる企業さまを探すべく、現在活動しているところです。工場開設や運営などに関するノウハウ提供などは当社が協力していく所存ですし、九州以外の地域ではすでにそれが実現して稼働しているケースもありますので、ご関心のある企業さまはぜひお声がけいただければ、と考えています。

山積する課題の解決に取り組む

 ──CLTや集成材のサプライチェーンが構築されれば、木材活用の可能性が広がるというわけですね。

 宇田 九州は、他の地域に比べ圧倒的に木材を調達しやすい優位性がありますが、それはこれまで主に住宅用途でした。その住宅の市場は縮減する傾向にあります。そうした意味でも、非住宅向けのサプライチェーンの構築は、木材活用の新たな用途をつくり、建設事業者さまの経営の持続性を高めることにも貢献する可能性をもっています。そして、先ほど述べたような安定した供給・需要を実現するサプライチェーンができれば、CLTや集成材のコストが低減され、鉄骨造やRC造との競争力が生まれ、中大規模建築物の需要がより高まることが期待されます。そうなれば、当社としてはこれまであまり調達してこなかった、福岡県産材などを積極的に購入できる体制となります。

本社工場入口の様子
本社工場入口の様子

    そのことは、各県の川上の林業活性化にも貢献することにもつながるはずです。もちろん、その前提にはJAS(日本農林規格)に対応する製材事業者さまが増えなくてはいけない、などという問題もあります。いずれにせよ、木材活用の推進は、CLTや構造用集成材を含めてまだ端緒についたばかり。各県単位でそれぞれの県産材の活用を推進するというレベルにとどまっていますから、そうした状況を変えるべく当社としてもさまざまな努力を行ってまいります。

(了)

【田中 直輝】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:有馬 宏美
所在地:鹿児島県肝属郡肝付町前田2090
設 立:1979年4月
資本金:4,000万円
TEL:0994-31-4141
URL:https://woodist.jimdo.com/

福岡営業所:福岡市中央区今泉2-3-16 紙久ビル402
TEL:092-600-9310
FAX:092-600-9311

(前)

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