2024年12月23日( 月 )

「プロ経営者」LIXIL藤森社長の正念場(後)

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世界で1位、2位のブランドを買収

 藤森氏が目標とする経営者は、GEの元CEOのジャック・ウェルチ氏だ。ウェルチ氏は、シェアが1位か2位の事業に集中し、それ以外は収益を上げていても売却するという経営方針で新陳代謝を重ね、GEを世界のトップ企業に押し上げた。藤森氏はGE流のM&A手法を取り入れた。

 藤森氏は「2020年に海外売上高1兆円超」の目標を掲げてM&Aを進めた。M&Aの対象は、住生活に関わるすべての製品で、世界で1位、2位のブランドを持っていることだ。

 LIXILは09年7月、藤森氏の助言に基づき、米衛生陶器メーカー、アメリカンスタンダードのアジア部門を176億円で買収。藤森氏が社長に就任してからは、11年12月、イタリアのカーテンウォール(外壁材)大手ペルマスティリーザを608億円で買収した。カーテンウォールとは、総ガラス張りの高層ビルなどに使われる外壁材だ。
 13年は海外大型M&Aが全開した。藤森氏は「まずは世界で水回り事業を強化する」方針を明確にした。
 13年8月、米衛生陶器最大手のアメリカンスタンダードの北米部門を305億円(負債の引き継ぎ分も含め531億円)で買収して、完全子会社した。この買収により、北米のシェアは21%と、売上高がほぼゼロという状況から一気にトップに立った。

独グローエ買収で、ジョウユウを手に入れる

20150525_005 LIXILグループは14年1月、日本政策投資銀行と共同出資する特別目的会社を通じて、ドイツの水洗金具大手グローエを買収した。買収額は約4,109億円。両社を合わせた台所、トイレなどの水回り部門の売上高は7,000億円で、TOTOを抜いて世界最大手になった。

 グローエは欧州市場で15%のシェアを握る水栓金具を筆頭に、浴室やトイレを手がける欧州最大の水回りメーカーだ。優れたデザイン力で、世界の高級ホテルで採用されるなど高いブランド力を持つ。
 11年には中国の衛生陶器メーカー、ジョウユウを傘下に収め、中国で2ブランドによる事業展開を進めてきた。ジョウユウは中国で設立された水栓金具や衛星陶器のメーカーで、中国で「中宇」というブランドで展開している。
 LIXILは高級品を充実させるとともに、4,000店規模の販売網を持つ中国最大手のジョウユウを手に入れた。ジョウユウを中国・アジアの水回り事業の中核に据えた。
 高価格帯はグローエ、中価格帯をアメリカンスタンダードとLIXIL、低価格帯ジョウユウとブランドを使い分ける戦略を描いた。
 15年4月1日、LIXILはグローエの発行済み株式の12.5%を266億円投じて取得した。特別目的会社を通じた間接保有を含め、56.25%を保有。持ち分法適用会社から連結子会社に組み入れた。これにともないグローエの上場子会社ジョウユウもLIXILの連結子会社となった。

 ところが、ジョウユウの創業者はとんだ食わせ者だったようだ。ジョウユウの不正会計疑惑にLIXILが初めて気付いたのは4月中旬。「キャッシュがあるはずなのに、中国の銀行から督促状が届いた」(藤森義明社長の説明)のがきっかけたという。特別監査チームを送り込んだ。
 詳細は明らかにしていないが、ジョウユウは不正会計が発覚して、債務超過に陥り破産に追い込まれた。LIXILの新興国戦略は挫折した。

今後、のしかかる「のれん代」の減損

 藤森氏が描く「海外売上高1兆円」達成のシナリオは、こうだった。

 連結子会社化したグローエを、17年3月期をメドに完全子会社化に踏み切る。
 海外売上上高は11年3月期の400億円から15年3月期には4,000億円と10倍にする。グローエを完全子会社する17年3月期には、海外事業の売上高は7,400億円、営業利益760億円を見込む。2020年には海外売上高1兆円達成が射程距離に入るというシナリオだ。

 だが、ジョウユウの破産で、このシナリオは絵に描いた餅でしかない。
 今後、大きくのしかかるのは、グローエの「のれん代」の重圧だ。「のれん代」は、企業を買収する際に支払った金額と買収先企業の純資産の差額である。日本会計基準では、20年以内に毎期定期償却する必要がある。
 LIXILが採用している国際会計基準(IFRS)は、償却は不要だ。その代わり、買収した企業や事業が不振に陥れば、巨額の減損(損失を計上して対象資産の価値を落とすこと)をしなければにならない。
 LIXILは、グローエのM&Aで、「のれん代」786億円と無形固定資産738億円の合計1,524億円を資産に計上している。グローエの子会社ジョウユウの破産で、グローエの資産価値は下落する。LIXILは、巨額な減損処理を迫られる。

 海外M&Aに綻びが出た。この苦難を切り抜けるために、プロ経営者としての神髄を見せることができるか――。藤森義明氏は正念場を迎えた。

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(了)

 
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