シャープ買収をめぐるドタバタ劇のガバナンス(後)
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コーポレート・ガバナンスの試金石
「シャープはコーポレート・ガバナンス(企業統治)の試金石」――。海外のメディアや機関投資家はこう見ていた。シャープの支援に、政府系ファンドの革新機構が前面に出てきたからだ。
「日本株式会社」と言われた時代には、官主導で企業の統合・再編が進められた。シャープの液晶部門と中小型液晶パネル世界最大手の(株)ジャパンディスプレイの統合構想は、官主導という従来の手法を踏襲したものだ。
これでは昔ながらの日本型ガバナンスそのもの。安倍政権がガバナンス改革の錦の御旗に掲げた株主主権が、ないがしろにされている。仏を作って、魂入れず。鳴物入りで導入した米国型ガバナンスは形だけのものになると、彼らは受け取った。米国でのM&A(合併・買収)は、国家安全保障と独占禁止法に抵触するもの以外はシンプルだ。高い金額を提示した側が買収する。「技術の海外流出を防ぐ」という感情ではなく、銭勘定で決まる。7,000億円を提示した鴻海と3,000億円の機構。取締役たちは高い価格を提示した鴻海案を呑んだ。
社外取締役たちの本音はともかく、ガバナンスは土壇場で機能した。買収価格が低い機構案を選択していたら、ガバナンスの本質的な部分は変わっていないとブーイングを浴びせられるところだった。「バフェット基準」を満たしていないシャープの社外取締役
ガバナンスが機能するための基本的要件は、取締役が自社株を保有しているかどうか、という点だ。「バフェット基準」と呼ばれている。米著名投資家で世界的大富豪であるウォーレン・バフェット氏が掲げるコーポレート・ガバナンスの基準のことだ。牧野洋氏が『東芝不正会計問題の盲点 「バフェット基準」を満たさない社外取締役は機能しない!』(「現代ビジネス」2015年8月3日付)で紹介している。日本企業の社外取締役は、自社株保有が少なすぎると指摘したコラムだ。
〈法的には、取締役会は株主利益を守る立場にある。ここでのポイントは株主との利害の一致であり、そのためには社外取締役は相当数の自社株を保有しなければならない。そうすることによって株主利益を守ろうとの意欲が湧いてくるからだ。(中略)こうすれば、一般株主が損すれば、社外取締役も同じように損する形になり、利害が一致する〉
自社株を保有していれば、経営判断を間違えれば、株主は損するし自分も損する。だから、自分が損しないような経営判断する。それが株主の利益につながる。これが「バフェット基準」と言えるものだ。
この基準に照らせば、シャープの取締役の大半は失格。自社株を所有しているのは、プロパー役員の4人と外部からの役員、社外取締役がそれぞれ1人の6人。取締役13人の半数にも満たない。経済産業省は新たな指針で、「社外取締役の役割は監督」と明記した。だが、形を整えるだけではダメ。社外取締役に、オーナー意識を持ってもらうことが大事だ。そのために「自社株を持て」と言っているわけだ。さすがに伝説的な投資家の指摘は鋭い。バフェット基準に照らせば、日本の社外取締役は何割、合格点がつくだろうか。
(了)
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