2024年12月22日( 日 )

ソフトバンク・アローラ氏電撃退任の真相~震源は中国のアリババ集団にあり!!(後)

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米証券取引委員会がアリババの調査に乗り出す

office_img 米証券取引委員会(SEC)は、アリババに厳しい視線を向けた。アリババは今年5月、「会計手法をめぐりSECの調査を受けていた」と公表した。

 アリババの登記上本社は英領ケイマン諸島にあり、上場時から株主の権利が十分守られるのかという議論がくすぶっていた。アリババは中国の法律によって、外国人や外国資本に株式公開していないので、誰も株を買えないし株主になれない。ソフトバンクはアリババの株主ではない。

 では、“アリババ株”とは何かと言うと、変動持ち分事業体であるアリババグループ・ホールディングスの株券だ。ソフトバンクは、タックスヘイブン(租税回避地)の英領ケイマン諸島にあるペーパーカンパニーの株主なのだ。
 ペーパーカンパニーの株主は、アリババ本体の株主総会に出席できないし、過半数の株式を取得しても買収できない。海外投資家が中国企業は不透明だと不信感を抱いている理由だ。

アリババ株を売却した意図を読み解く

 SECがアリババの調査に乗り出した。アリババの株価は下落した。これを機に、ソフトバンクはアリババ株の大量売却に踏み切った。
 アリババ株の売却は、アローラ氏主導で進められた。というのは、アリババ株の売却をめぐる報道で、孫正義社長とアローラ副社長の不協和音を伝える報道があったからだ。

 〈グーグル出身のニケシュ・アローラ副社長は、孫氏の従来の投資手法を「趣味的」と評し、今後は「持続可能の戦略とすべきだ」と指摘していた。アローラ氏の方針に従い、ソフトバンクは「投資だけではなく、計画的な回収をしていく」(後藤芳光常務執行役員)としていた〉(朝日新聞6月7日付朝刊)

 この記事には仰天した。孫社長は「アリババ株は売却しない」と言明していたが、そのことをアローラ氏は「趣味的」と切り捨てたのだ。投資とは売った、買ったのマネーゲームである。株式を売りもせず持ち続けるのは、美術品のコレクターと同じ「趣味」だと批判したわけだ。ボスをコケにするのは、喧嘩別れするときだ。孫氏とアローラ氏の亀裂は決定的になったと判断した。
 おそらく、アリババ株の下落を、アローラ氏は難問を解決できるカードに使えると捉えたのだろう。孫社長に対しては、アリババ株の売却で、財務を強化するという大義名分になる。解任を突き付けられている投資家グループには、アリババ株の売却による巨額な売却益で、黙らせることができると踏んだとしても不思議ではない。

 アローラ氏はアリババ株を1兆円で売却した。これが、ソフトバンクでの最後の大仕事となった。6月22日の株主総会で退任した。孫社長は「僕がもう少し社長を続けたくなった」と述べ、アローラ氏への禅譲を先送りしたことが、アローラ氏の退任理由と説明した。実際は、投資家グループから利益相反を追求され追い詰められたことが退任の理由だった。

孫社長に求められる説明責任

 ソフトバンクの2016年3月期の有価証券報告書によると、アローラ氏の役員報酬は64億7,800円。このほか15年4月から6月に取締役に就任するまでの期間にかかる主要子会社からの役員報酬は15億6,400万円。合わせて80億4,200万円の報酬があった。
 15年3月期は契約金145億6,100万円と株式による報酬が19億9,500万円の、合計165億5,600万円だ。2年間で245億9,800万円の報酬が支払われていた。欧州のプロサッカー、米国のプロ野球のプレーヤー並みの高額報酬だ。

 投資家グループは、アローラ氏のソフトバンク入社による恩恵がまだ何も見られないなかで、高額の報酬が支払われたことは、「憂慮すべきであり、容認できない」とした。
 投資家グループはまた、昨年アローラ氏が600億円分のソフトバンク株の購入についても疑問を呈した。「アローラ氏の株式購入資金の出どころが不明確だ。また、この取引でソフトバンクがどのような便宜を図ったのかが説明されていない」と指摘した。
 米国メディアによると、アローラ氏は辞任後、自身のツイッターで、ソフトバンク株についてこう書き込んだ。「売却はすでに完了した」と。
 50年、100年のスパンで発想する気宇壮大な孫正義と、短期利益を追い求めるアローラ氏は水と油。訣別したことには驚きはない。

 利益相反を疑われているアローラ氏を、常識外れの高給でスカウトしたこと。アローラ氏に複数年にわたる巨額な報酬を保証したとされる契約は、どうなるのか――。孫正義社長の説明責任が求められる。

(了)

 
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