日本郵政が野村不動産HDを買収へ、野村不動産はあの東芝の家主だ!(後)
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トール買収に“禁じ手”を使った
日本郵政がトール社の買収を発表したのは2015年2月。当時の社長、西室泰三氏が独断で決めた。西室氏は(株)東芝の社長・会長、(株)東京証券取引所会長を経て、13年6月に日本郵政社長に就任した。日本郵政グループは、郵政民営化から始まった政府主導の上場案件だ。
15年11月4日、日本郵政、ゆうちょ銀行、(株)かんぽ生命保険が東京証券取引所に同時上場した。海外の機関投資家が、“成長性なし”とみなす郵便事業でも成長性があるところを見せるために、上場半年前にトール社を買収した。国際的な物流企業へ成長するという謳い文句だったが、日本郵便(株)は国際事業の発展に必要な人材もノウハウも持っていなかった。上場に向けて“厚化粧”を施したにすぎなかった。
日本郵政グループが上場したとき、最も懸念されたのは、トール社ののれん代だった。買収費用6,200億円の内訳は純資産4,000億円と、トール社に要求されたのれん代2,000億円とされている。ところが、M&Aを繰り返してきたトール社は純資産に、過去に買収した企業ののれん代3,000億円を紛れ込ませていた。つまり、日本郵政はのれん代に5,000億円も支払った。日本郵政が民営化後に初の赤字決算になった原因は、トール社ののれん代の償却にともない4,000億円の減損損失を出したからだ。西室氏の“負の遺産”である。
『週刊文春』(5月25日号)は「麻生財務大臣に届いた日本郵政社長『辞任勧告状』」で、トール社買収の禁じ手スキームを報じた。「辞任勧告書」の送り主は、日本郵便副会長を務めた稲村公望氏と、日本金融財政研究所所長の菊池英博氏。菊池氏がこう語っている。
〈「まず、ゆうちょ銀行の株式をゆうちょ銀行自身が買い上げる自社株買いで約一兆三千億円の内部留保をつくった。それを日本郵政がゆうちょ銀行から吸い上げ、買収資金として調達したのです。上場後であれば両社で利益相反の恐れもある“離れ業”です」〉
こんなメチャクチャなスキームで、ゆうちょ銀行の資金を流用したことを、ゆうちょ銀行や日本郵政社長に就いた金融のプロの長門氏が知らないはずがなく、経営責任は免れないと辞任を勧告しているのである。
野村不動産の東芝リスク
西室氏の出身母体である東芝は、米原発子会社ウェスティングハウスの巨額減損で、解体の危機に瀕している。
かつて東芝本社ビル38階の役員フロアには社長、会長の執務室に加え、相談役の個室があった。西室氏は土光敏夫氏が使っていた部屋に居座り、東芝の首脳人事を仕切り、社員から“スーパートップ”と呼ばれていた。東芝の米原発子会社の減損処理、日本郵政の豪物流子会社の減損処理。西室氏が行くところ、巨額な損失ありだ。実は、野村不動産(株)と東芝は関わりが深い。JR山手線の浜松町駅近くに、東芝の本社が入居する40階建ての浜松町ビルディングがそびえ立っている。そのビルの大家が、野村不動産HD傘下の野村不動産だ。『地味な「浜松町」、野村不動産が社運を賭け一新』(東洋経済オンライン2016年8月18日付)に基づき、同ビルの歴史をたどってみよう。
〈東芝が東京芝浦電気から名称変更した1984年に「東芝ビルディング」として竣工した。東芝の完全子会社の保有ビルだったが、2008年のリーマンショックによる東芝の業績悪化を機に、子会社ごと売りに出されることになった。(中略)
野村は800億円を投じてこの子会社の株式の65%を取得し、東芝との合弁企業「NREG東芝不動産(株)」が誕生した。さらに2015年には、東芝が不正会計問題の余波で巨額赤字転落が見えていた中、370億円で株式の30%を野村に追加売却した。現在は、野村不動産の持ち分が95%、東芝が5%。東芝ビルディングから浜松町ビルディングにビルの名称を変更して複数のテナントが入居しているが、今でも最大のテナントは東芝本社だ。〉東芝が解体の危機だ。「リストラの一環として、ビルから東芝本社が退去するのではないか」「野村不動産は賃料を下げざるを得ないのでないか」。株式市場では、こうした懸念から、野村不動産HD株の下げが続いた。
ほぼ10年前に野村不動産グループとなった東芝ビルディングを、日本郵政が手に入れようとしている。因果はめぐる。“西室氏の呪縛”と騒ぐのも無理はない。(了)
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