2024年12月28日( 土 )

上海の激変~ある日本人経営者から垣間見る(1)

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10億円の家を建てた

 昨年11月のことだ。上海で20年会社を経営している友人、野中氏が「10億円の家を建てた」と漏らした。「それならば年明けに視察に行こう」と話が進んだ。彼の新居は上海市南部の松江地区にある。厳密に説明すると、中国では日本の一戸建てのことを別荘と呼び、建売住宅として売り出される。建売であるから家族総出でリニューアルに時間をかけた、金をかけたのである。練りに練った住宅に仕上げることができた。

 と同時に「工場の移転建設も進んでいる」と聞いたので「ぜひ、現場を見たい」という思いが募った。この友人が上海で工場経営を始めて20年になる。地獄の瀬戸際に立たされるほどの辛酸を舐めてきた。その事実に立ち会ってきた筆者は野中氏の成功が我がごとのように嬉しかった。日本人の経営者の大半は、中国進出で失敗を喫して逃げ帰ってきた。中国での成功率は1パーセントにみたなかったのではないか。友人は危機をどうにか乗り切って次への躍進への基礎固めをしているのだ。

地方はいまだ工業団地建設ラッシュ

 1月13日、上海着9時50分の便で福岡を発つ。同行者は阿久根さん。上海浦東国際空港は現在、4本の滑走路と2つのターミナルで運営されているが、現在3つ目のターミナルが建設中だ。さらに6本の滑走路も計画されているとか。利用者数は年間8,000万人である。浦東国際空港を訪れるたびに、その拡張発展には驚かされる。入管手続きには時間を要したが、それだけ外国人の往来が急増した証明だ。待機中の飛行機の機数も羽田空港を上回っている感じである。3ターミナルがフル稼働するようになれば、追い抜かれるであろう!

 浦東国際空港には野中夫婦が迎えに来てくれた。車で一路、浙江省の工業団地に向かう。陸路は上海中心部東部の高速道路を使うと思い込んでいた。しかし、走れども走れども知った光景が出現しない。「あー上海市街地を横切らない、東側(海側)を走る高速道路ができていたのだ」と思い至った。中国国内では一瞬にして新道路が開通する。浦東国際空港から南に向けて高速道路を飛ばしたのだ。距離にしておよそ150キロ。時間にして2時間半を要して、浙江省桐郷市にある工場団地に到着した。

 桐郷市も他の自治体に負けないように工場誘致に躍起になっているのだ。中国の人件費はたしかに値上がりしている。野中社長の工場では技術者が月収10万円、一般工員が6万円とか。あと5年もすれば日本の給与水準に近づく。中国の人件費が上がったとしても、それでも製造業の勢いが止まることはない。地方都市での工場団地建設ラッシュを目撃して確信をもった。とくに世界の大都市上海の近隣地域では成功する可能性は濃厚だ。中国の「世界の工場」としての役割は、まだまだ減少することはない。

6月稼働予定の新工場

 新工場建設現場に到着した。現場は6月の稼働開始に向けて突貫工事が行われていた。工場は4階建て建坪33,000m2の広さになる予定だ。新工場敷地は8,000坪であり、土地利用権利投資額含めた総事業費は25億円を超えるであろう。 繰り返すが、上海から南西部150キロ離れたこの辺まで工場建設のラッシュに沸いている様子を目の当たりにして、世界の工場としての機能をはたしている中国の懐深さには圧倒される。次回に触れるが、中国国内のあらゆる自治体が企業誘致に奔走しているために成せる業の結果である。

 建設中の工場内を見た。2棟が立ち並び、奥でつながっている。言わばU型になっているのである。巨大な設備計画を聞いて驚いた。また設計図ものぞき込んだ。「ここにこの機械を、あちらならばあの機械を設置するのか」と想像していくと興奮が募ってくる。日本と遜色ない機械設備である。フル稼働すれば200名の従業員が働くことになるそうだ。4階のスペースは賃貸にするとのこと。6月に新工場が完成した暁には、もう一度立ち会いたいものである。

(つづく)
(文中の登場人物は仮名です)

 
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