地獄の釜が開いた──。東証2部上場のシステム開発会社・ニイウスコー(東京都中央区、大野健社長)は4月30日、東京地裁に民事再生法を申請した。子会社を含めた負債総額は558億円。
これを受けて、証券取引等監視委員会が本格調査に乗り出す。かねてから、伝票だけを動かす循環取引で、売上高を水増しした不正経理疑惑が指摘されていたが、その実態にメスが入ることになる。
682億円の売上を水増し
ニイウスコーは2007年6月連結決算で、医療事業(医療向けシステム)の撤退費用などを計上し税引き後利益が302億円の赤字に転落、40億円の債務超過に陥った。末貞郁夫会長(60)や割方美奈子社長(43)ら5人の取締役全員が責任をとって辞任。新社長には野村総合研究所出身の大野健氏(58)が就任。ロングリーチグループなどの投資ファンドを引受先として総額200億円の第三者割当増資。債務超過を解消して再建に踏み出した。
しかし、医療事業で巨額赤字がなんで発生したのか。真相はヴェールに包まれていた。
同社が同日発表した内部調査によると、03年6月期から5期にわたり、実態のない商品を複数の取引先と売買したように見せかける「循環取引」があった。5期累計で売上高682億円、純利益277億円を水増ししていた。決算訂正の結果、07年12月中間期末に278億円の債務超過に陥り、自力再建を断念した。
同社は1992年に日本IBMと野村総合研究所との合弁会社としてスタートし、引責辞任した末貞前会長をはじめ経営陣は日本IBM出身者が占めていた。上場直後の02年6月期の売上高375億円が最盛期の05年同期は789億円(07年同期は603億円)と倍増したが、実態は、循環取引で売上を水増ししていたのである。
アイ・エックス・アイ事件
ニイウスコーが巨額の穴を空けたのは、07年2月に強制捜査が入った前東証2部上場のシステム開発会社、アイ・エックス・アイ(大阪市、07年1月に民事再生法を申請。負債総額約119億円)による架空循環取引に加わっていたからだ。
循環取引とは、商品を動かさずに資金と伝票だけが複数の取引先をめぐり最終的に最初の販売先に戻る取引のこと。業界用語では「Uターン取引」とか「まわし」と呼ばれている。
アイ社は循環取引で売上高の8割を水増ししていたことが発覚。アイ社を買収して子会社にした東証マザーズ上場第1陣のインターネット総合研究所(東京都新宿区)は、アイ社の粉飾数字がかたまらないため、決算ができず上場廃止に追い込まれた。
アイ社の循環取引は、東証1部上場のネットワークシステムズの元部長がシナリオを画いた。アイ社に協力企業として東京リースを紹介。05年3月、アイ社が東京リースに発注し、東京リースが複数のIT企業に下請け発注。下請け各社の支払いは、東京リースがいったん肩代わりした。
取引の信用を高めるため05年8月から、日本IBMを「発注役」とする新たな循環取引を考案した。アイ社が取引の中心で、「発注役」が日本IBM、「現金供給役」が東京リースの組み合わせで、循環取引が膨らんでいった。
06年夏、東京リースが取引から撤退したことから、アイ社に約103億円の簿外債務が発生。この簿外債務分を帳簿上の在庫として資産計上したところ、監査法人からの指摘で、循環取引が発覚したのである。
循環取引の輪が切れたとたんに、あちこちでトラブルが発生した。「発注役」の日本IBMと「現金供給役」の東京リースの間で訴訟沙汰に発展。東京リースが起した裁判の記録によれば、05年秋からの1年間に、東京リースの販売先として登場するのがニイウス(現ニイウスコー)。少なくとも3回取引に参加し、取引額は1回あたり15~26億円だった。
アイ社の指南役を務めたのが元日本IBMの部長。日本IBM出身者で経営陣をかためたニイウスとは、それこそツーカーの間柄であった。
(つづく)