耐震偽装問題で一躍有名になったアパグループが、今度は「真の近現代史観」とやらの論文を公募し、受賞した現役航空幕僚長の「私見」を肩書き付きで公表した。当然のことながら政府見解を真っ向から否定した形の田母神俊雄氏は、航空幕僚長を更迭され、シビリアンコントロールを揺るがす大問題に発展した。人騒がせな企業ではある。
同グループの代表は、自衛隊だけでなく、安部晋三元首相をはじめ政界との関係も深いという。グループのホームページには、馳浩・自民党衆院議員の「永田町通信」なる連載が100回も続いている。1企業のホームページに政治家が「私見」を公表し続けることに違和感を覚える。アパグループ発祥の地が、馳議員の地元石川県であると聞いてもスッキリしない。
アパグループの懸賞論文が、結果的に「国益」を損ないかねない問題になっていることに、政治好きの代表者は何も感じないのだろうか。元空幕長もアパグループも、「侵略」「虐殺」といった、いわゆる「自虐史観」と呼ばれるものに対し、確信犯的に挑戦したのだろうが、迷惑をこうむるのは日本の国民である。
国際的な金融危機のなか、各国と協調しての対応が求められている。アジア欧州会議に麻生首相が出席し、アジアや欧州各国との連携強化を確認したのは先月24、25日のことである。その矢先に国際社会のひんしゅくを買うことが、どれほどマイナスになるか、分からなかったらしい。
自衛隊制服組のトップが政府見解を否定してみせることで、本人やアパグループは満足だったのだろう。しかし、もたらされる諸外国や世論の反応が予想できなかったとしたら、両者には「公(おおやけ)」への責任意識が皆無だった、ということに他ならない。
アパグループのマンションやホテルに耐震偽装が発覚したのは昨年のことである。当時、謝罪会見はしたものの、今回の騒ぎを引き起こしたところを見れば、反省は形だけだったとしか思えない。
耐震偽装でマンションやホテルの利用者を危険にさらしただけではあき足らず、「国家」そのものを危険な道に引き込もうとでもいうのだろうか。今回の懸賞論文問題について、アパグループがだんまりを決め込むつもりなら、その企業倫理を厳しく問わねばなるまい。