■東京都の妊婦のたらい回し事件、「妻の死無駄にしないで」
10月4日、都内の8病院に診察を断られ、たらい回しにされた妊婦が脳内出血で死亡しました。妊婦の夫が都内で会見し、お母さんが安心して子どもを産める社会になってほしい。「妻の死を無駄にせず、病院や都、国が力を合わせて(産科医療を)改善してほしい」と訴えました。また、一昨年の奈良県、先月の東京都の妊婦の「たらい回し事件」は、日本の周産期医療の崩壊として全国に報道されました。
厚労省の調べで、「たらい回し」は産科、麻酔科、新生児科の医師不足と新生児集中治療室(NICU)の空きベッドが無い事が原因と分かりました。診療を断った8病院は、救急医療を専門とする都内の有名な総合周産期母子医療センターでした。最初に断った都立墨東病院は産科当直医が一人、しかも研修医であったことが判明しました。舛添大臣は二人当直体制を敷く様に申し入れをしましたが、6人の産科医では3日に一回の当直となり、事実上不可能である事を認めました。舛添大臣は慌てて来年から医学部学生を増やすと発表しましたが、一人前の産科医を育てるには10年以上かかります。医学部6年、卒後10年、つまり産科専門医が増え出すのは早くて16年先のことです。地方の産科医不足はもっと深刻で、産科病棟は閉鎖され産む場所がなくなっています。国は、この緊急事態をどう乗り越えるのか、現時点では厚労省にその対策はありません。そして福岡市も例外でありません。福岡市民病院の産科病棟は産科医不足のため3年前より閉鎖されたままですし、浜の町病院は来年春から1年以内に5人(7人中)のベテラン産婦人科医が辞める事がわかっています。しかし、九大は浜の町病院に欠員補充の医師は送れないといいます。残された2人の医師は、1日毎の当直となります。二人の医師を激務から救う道は退職しかありません。
■平成20年9月、福岡市は市立こども病院を人工島に移転させ、そこに周産期センターを新設すると発表しました。分娩施設を備えた立派なこども病院が出来たとしても、そこで働く産科専門医をどの様にして確保するのか、産科医不足対策は病院建設より難しい問題です。福岡市側は、こども病院の産科医の人数は当初4名と発表しました。二人当直体制で二日に一回の当直、当直明けに日勤をする。福岡市は産科医を殺す気かと言いたくなる計画案です。二人当直体制にするには、14人の産科医の確保が必要です。人工島の周産期センターが市の計画通りに機能するかどうかは、産科医を何人確保できるかにかかっています。日本の産科医不足から予測すれば、給料を倍に上げても確保できる見込みは無いでしょう。何故ならば、医学部学生が産科医、麻酔科医、新生児科医を志望しなくなったからです。医学生がこの3つの診療科を敬遠する理由は、医療事故が多い、激務である、救急医療で時間が束縛されるからである。
全国で産科専門の病院が閉鎖され機能の集約化が進む中で、人工島に周産期センターを新設するのは余りにも非常識・冒険と言わざるを得ません。市内の産科開業医のほとんどは利便性の悪い人工島ではなく、周産期医療スタッフの揃った九大・福大・徳州会病院、医療センターの4病院にハイリスク患者を搬送します。人工島の新病院に運ばれる患者は少なく、収益は減り、市の財政赤字は雪ダルマ式に増えるのは間違いありません。新病院は出来ても、産科医がいない、患者がいない、周産期センターとしての機能は果たせない。今、福岡市にとって大事な事は、周産期センターをどこに建築するかではなく、周産期医療をいかに充実させるかなのです。
こども病院の人工島移転を強行するのであれば、今回の計画案から周産期医療部門を除外すべきです。
人工島での周産期医療は機能せず、赤字が増えるからです。11月1日の産婦人科医会の臨時総会で市内の全ての産科開業医は、ドクターヘリではなく、ドクターカーを希望している事が分かりました。人工島での周産期医療の新設を中止し、九大・福大・徳州会病院、医療センターの周産期部門を人的・経済的に支援をする方が、患者・産科医・福岡市にとって最善策と考えます。福岡市は建物を設計する前に計画案を見直し、周産期医療(産科開業医・新生児科医・麻酔科医)の専門家を交え医師不足対策を早急に計るべきです。もし、人工島に周産期センターが出来たならば、福岡市の周産期医療崩壊だけでなく、福岡市の財政崩壊が始まると思われます。福岡市民が明るく、健康に過ごせるかどうかは、市議会議員の先生方の肩にかかっているのです。