民営化是か非か、小泉政権から引きずる日本郵政をめぐる暗闘が、最終局面を迎えたようだ。小泉内閣が強引に進めた郵政民営化も、その後の安倍、福田内閣の下で蓄積した批判派のマグマが、「本音は批判派」の麻生内閣で一気に噴出。「かんぽの宿」問題で民営化のいかがわしさが目に見えるかたちで提示されたが、民営化推進派もただでは引き下がらない。勝負の行方は郵便法違反事件の行方次第だ。
郵便法違反でまたも混乱
「いつもならすぐ取れる連絡が取れない。相当に混乱しているようだ」と日本郵便幹部の友人が嘆息すれば、「検察はロッキード以来の大捜査態勢で臨むらしい」と日本郵政グループの取引関係者。さらには「これは西川派の巻き返しなのか?」という永田町関係者も。
「かんぽの宿」問題で揺れる日本郵政グループに、またも衝撃が走ったのは4月半ば。障害者団体向け郵便割引制度を不正利用した、ベスト電器やウイルコらの上場企業と名義貸しの障害者団体、斡旋した広告代理店が大阪地検に摘発されたからだ。障害者団体であればこそ本来120円の郵便料金が8円で済むことに目をつけ、ダイレクトメール郵送に悪用するというモラルや品格のなさはもとより、それが犯罪そのものであれば摘発されるのは当然である。それによって詐取された金額が巨額にのぼるうえ、多くの政治家やその周辺人物が絡んでいれば、「ロッキード以来」うんぬんはともかく、大阪地検のみならず検察あげて取り組んでもおかしくはない。
事件は事件として解明されるべきであり、されねばなるまい。それによって郵政の闇がまた一つ明らかにされ、是正されるのであれば結構なこと。ただこの事件、違う視点から眺めると結果として先の永田町関係者がいう「西川派の反撃」になるのも事実だ。「かんぽの宿」が批判派による推進派への攻勢だったのに対して、今回の事件は攻守ところを変え、推進派による批判派への逆攻勢の材料になるからだ。
周知のように、郵政民営化は小泉純一郎元首相と竹中平蔵元経済担当相主導で進められた。それは米国を本拠とする国際金融資本の利益にはかなうものの、日本の国益に沿うか否かの本質的議論はなされないまま、「民営化賛成か反対か」という小泉絶叫に国民が「賛成」したからだ。小泉氏が旗振り役なら、参謀役が竹中氏だった。そして旧郵政公社は「ゆうちょ銀行」「かんぽ生命」「郵便事業」「郵便局」と4つの株式会社に分割され、4社の上に持ち株会社として「日本郵政」が君臨。その社長に座ったのが竹中氏と懇意の西川善文元住友銀行会長である。
(つづく)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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