<まだあった前食い案件>
「これは1件だけではないな」と直感した。さらにリサーチを続けると、出てくるわ、出てくるわ。A社発注のマンションを高松組は8億円で受注した。前受け金8,000万円を受領したとか。施主側からみれば、「安くしてくれたから10%の前途金くらいは払ってやろう」という配慮したのだろう。結果は同社の行き詰まりで、A社は対応にてんてこ舞いになっている。潰れてわかる高松組の安値・前金依存の資金繰り状況の現実だ。
取引先に聞いてみた。「高松さんが8億円で取った物件、次に安い2番札は8.7億円か8.8億円でした。10%程度の、開きがあったようです。我が社も精一杯、見積もりました。しかし、とてもじゃありませんが、収支トントンどころか真っ赤な赤字になりました。これでは付き合いきれませんからお断りしたんです。私のほうでは高松さんが何故、こんなに安くで取るのか不安感を抱いたのは昨年末あたりからです」。
施主も馬鹿ではない。「安くしてくれてありがとう。だが安いのは警戒する必要がある。安心できる業者を工事保証人にしよう」と万全策を打つ。「高松さん、工事保証人として業者を立ててくださいね。そうすれば前途金払いもOKです」と打診すれば、「いやー、信頼できる業者を連れてきます」と必死で見つけてきた。表面上、資金が転がっている間は馬脚を現さないが、ストップしてみればすべてが露呈される。高松組の最大の被害者は、工事保証人となった同業者になる。知れば溜息しかつけない。信頼されてきた友人たちを裏切る結果になるのだ。福岡建設協力会の解散話も浮上するだろう(高松宏氏が会長を務めている建設団体で、福岡では一番の老舗格組合団体)。
<水面下の累積赤字を知れば行動心理が頷ける>
累積赤字に苦しみながら、表面上は糊塗して平然とした顔で応対してきた高松社長の心痛には同情し、胸が張り裂ける。「6月5日決済不能」という巷の風評を粉砕する資金回収の目処は5月13日についたとみられていた(高松社長もそのようなコメントをしていたのだが)。銀行で融資OKの条件に厳しい査察を受けるのは当然だ。想像するに同氏は、「粉飾決算がばれる。これでは太刀打ちできない。皆に会わせる顔がない」という心境に陥ったのだろう。俗物的な表現で言えばパニック化したのだ。
「あの取引先の社長には会わせる顔がない」「ゼネコンの同志であるB 社長には済まないことをした。怒り狂うだろう」と頭の中を走馬灯のように駆け巡った。頭脳の思考停止、肉体の痙攣が生じて、動きがストップしたのだろう。そんな感じに考えてやらないと、日頃から気配り紳士であった高松氏の実像とあまりにもギャップがあり過ぎる(紳士然とした立ち居振る舞いと雲隠れの現状。いずれも高松宏氏の実像なのだろうが)。
どうであれ、一番先の結末を読める立場にいたのは高松氏だ。迅速な決断をすべきであった。創業者であれば、とうの昔に決断即行で民事再生法を申請したであろう。そうなれば、スポンサーを見つけて再生の芽もあったはずだ。至極、残念。近々、非常貸借対照表が入手される。その時に債務超過の金額が明確にされるであろう。
(つづく)