そこで気になるのが「郵政の倉庫には大量の物資が死蔵されている」という内部情報だ。「死蔵」とは仕入れたものが使われないまま倉庫に眠っているということである。
「当然考えられることです。郵政各社はいろんな物品を調達していますが、必要以上に仕入れたもの、あるいは必要でも現場で生かされない結果、そのままおクラ入りしているものがいくらでもあるはずです」
というのは民営化後に退職した郵政OBのB氏。たとえば、4社さまざまのセールスイベントでは大量のパンフレットやチラシがつくられるが、必要なところに届いていないことも珍しくないという。「分社化して郵政がもつ本来の物流機能がマヒ」(B氏)した結果だそうだが、そこで余ったものが処分されるまで倉庫に一時保管されるという図式だ。
しかし、倉庫に納められているのはそれらペーパー類だけではないだろう。どこに何が死蔵されているのか。郵政の代表的な大型倉庫を調べると郵便事業会社が所有する北海道、東日本、西日本、九州の物流センターがある。東日本のそれは茨城県下にあるが、「日本郵政」あるいは「郵便事業」の社名はどこにもなく、民間のものか公的なものかも判然としない大型施設だ。その施設内倉庫に出入りしたことのある郵政関係者がいう。
「入って驚いたのはポリバッグに包装されているユニフォームの山。4社それぞれのがあるうえ、その総量たるや膨大で東日本の倉庫だけでも数万着分でしょう」
民営化した郵政で目立つのは、郵便局で見る社員たちの制服。窓口のほとんどを占める郵便局会社はもとより、ゆうちょ銀行、かんぽ生命それぞれに制服を着用している。いま現在の郵便局のそれは、男子が白ワイシャツ、女子が白ブラウスでネクタイは共通。共にその上に半袖のダークグレーのジャケットをつけ、男子は同色のズボン、女子はスカート。旧郵政時代より民間企業らしくアカ抜けて見えるのは確かである。
これらはどう調達されているか。現在のそれに相当しそうなのが昨年8月に郵便局が入札公告して、10月に一般競争入札が行われたもの。結果を列挙すれば、「男子ジャケット」1万4,000着が1億3,900万円、同女子用3万着が1億5,800万円。「男子スラックス」1万3,000着が3,500万円、「女子スカート」5万8,000着が1億7,000万円。「盛夏シャツ」2万7,000着が4,700万円、「盛夏ブラウス」5万6,000着が8,000万円。ネクタイ1万8,000本が1,900万円でそれぞれ落札されている。男女平均すれば1人当たり制服代はおおよそ1万円ということになる。
そんな制服が山積みになっているという。視認した先の郵政関係者によれば、「東日本だけで数万着あるということは他の物流センターも同様のはず。それら合わせれば10万着近いのではないか」という。一式約1万円ならざっと10億円だ。
郵政社員総数23万人の内訳は、人手を要する郵便事業と郵便局が各10万人、ゆうちょ銀とかんぽ生命合わせて3万人である。これら4社の制服はすでに使用されているが、その予備用にしても10万人分が事実なら多過ぎる。そもそも上記のように郵便局が調達しているシャツとズボン、ブラウスとスカートなど、それぞれの調達数はバラバラ。破損を補うための予備としての調達ということであれば、目撃者がいう「1人分一式」がパックされているのも妙だ。
「公社時代の制服は3年に1回更新でしたが、夏と冬それぞれ1着ずつ。洗濯に出すと夏でも冬用を使わざるを得ませんでした」(前出・A氏)。
民営化後はどうなったか。郵便局会社に問い合わせたが、やはり「4事業会社を含めて郵政として(筆者に対しては)取材には応じられません」(同社広報室)という。
大量の制服が文字通り「死蔵」されているとすれば、非効率きわまりない。「ただの予算消化に使われている」という郵政内部情報もあり、調達がどのように行われているかを調査して見えてきたのは、民営化とは何かという改めての疑問である。制服問題を機に報告したい。
(了)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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