「勝ち組連合の誕生」「食品業界大再編への号砲」――日本経済新聞のスクープによって突如明らかになった、サントリーホールディングスとキリンホールデングスの経営統合を、各メディアはこんな表現で好意的に取り上げる。だが、各メディアがあまり焦点をあてない謎の会社がある。サントリーの実質的な持ち株会社、寿不動産である。
大阪・堂島のサントリー本社内の一室にその会社がある。従業員はたった8人しかいない。サブリースのマンションなど不動産賃貸事業とサントリー各社への保険代理店業務をなりわいとし、2008年12月期決算によると、売上高はわずかに8億5,200万円しかない。社名の「寿」は、サントリーの前身が寿屋だったことに由来する。
何の変哲もないちっぽけな不動産会社だが、この寿不動産こそがサントリーを支配するツールとなってきた。非上場企業であるサントリーの圧倒的な筆頭株主として、サントリー株の89%を保有しているのである。
株式を公開しないできたサントリーは、創業家である鳥井、佐治両家によるオーナー会社の色彩が濃い。今回のキリンとの統合を果断に決めた佐治信忠社長(63)は、名経営者と慕われた佐治敬三氏の長男だ。「やってみなはれ」で知られる佐治敬三氏は、創業者である鳥井信治郎氏の二男である。寿不動産の役員にはこの佐治、鳥井両家のメンバーがずらりと並ぶ。佐治信忠氏が社長を務め、副社長は鳥井信吾サントリーホールディングス副社長(56)、取締役には佐治氏の母である佐治ケイ(85)、鳥井春子(98)、鳥井文子(62)らが名を連ねる。専務は鳥井信吾氏の義弟である酒井明久氏(57)が就いている。
サントリーの筆頭大株主であるこの寿不動産の株主も一族である。個人筆頭株主の鳥井春子氏が9.21%を保有するのを始め、佐治信忠、鳥井信吾、酒井明久の3氏が4.97%ずつ持つなど一族19人で81.57%を保有。さらに同様に一族が理事などを務めているサントリー文化財団、同音楽財団、同生物有機科学財団の3財団が18.41%を保有している。
売上高(営業収益)は先述の通り8億円余と決して大きな額ではないが、サントリー株の配当金による営業外収益はその4倍近い31億円余もあり、経常損益は35億円余の黒字だ。ここから一族らへの役員報酬9,748万円と寿不動産株からの配当金約21億円が捻出されている。
(つづく)
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