驚異的なのは寿不動産の貸借対照表である。「負債・資本の部」には、有利子負債は一切なく、株主資本が271億円も積み重なっている。その反対側の「資産の部」に目を落とすと、保有美術品がなんと121億円もある。投資有価証券は約48億円だ。ところが、サントリー株を中心とする関係会社株式はわずか56億円余と記され、大阪・東京の一等地に保有するといわれる土地もたった5億円としか記されていない。連結売上高が1兆5,129億円もあるサントリーの89%の株の評価が56億円余とは信じがたい。保有資産の評価額は簿価である可能性が高く、かなり潤沢な含み資産を有していると考えられる。
さらに不思議なのはその税負担の軽さだ。法人税、住民税などの支払いはたったの71万円しかない。税効果会計の影響があるのか、法人税調整額が2億4,542万円と、税の戻し入れのほうがはるかに大きいのである。
非上場のサントリーをこれまた非上場の寿不動産が支配し、財務や税負担、資産評価など、決して透明性は高いとは言いがたい。
こうした点を考えると、今回のキリンとの経営統合の背景には、佐治、鳥井両家による支配を脱して近代化を図るという狙いがあるのかもしれない。上場のキリンと非上場のサントリーが統合しても、「新生キリン・サントリー」が株式上場を今後も維持すると予想されるため、今回の経営統合は結果的にサントリーが上場するのと同じ意味を持つと考えられる。
このときに、仮にキリンとの統合比率を1対1という対等合併だとすると、「新生キリン・サントリー」の株式の約45%を寿不動産が持つことになるため、寿不動産の保有株を市場を通じて売り出したり、機関投資家などに買い取ってもらったりすることになりそうだ。そのときには莫大な含み資産が時価評価され、簿価のサントリー株が高値で売却できよう。その売却額をもとに寿不動産が税金を負担する――そんな隠されたシナリオも透けて見えるのである。
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