マスコミ懐柔型広告投下から マーケティング重視型へ
当時とは時代背景は異なるが、デフレ化や極度の販売不振といった今日との共通点はある。作り手の発想ばかりを優先するのではなく、価格やデザイン、大きさ、機能など消費者のニーズを汲み取り、それをもとに新車開発をするというのは、あながち間違っていなさそうだ。日本の自動車、電機メーカーはこれまで製造部門が大量生産した製品を販売サイドに卸し、大量販売するという仕組みが取られてきたが、これだと安易な価格競争を招きやすい。マーケティング重視の姿勢は的外れとは言えない。
章男氏の槍玉に上がった広告部門だが、トヨタは近年、批判的な報道を抑えるためのマスコミ懐柔策に宣伝費を濫用しがちだった。新聞やテレビ、雑誌に多額の広告費をばら撒くものの、必ずしも新車販売につながらない。しかも、広告費をエサにマスコミを誘導するトヨタ広報部門のやり口に章男氏は冷ややかとされる。「1月にあった社長内定の記者会見は、広報部門に話がおりてきたのは当日。事前に何の準備もさせなかった」(トヨタ広報担当者)といい、章男氏は広報部門にかなり冷淡のようだ。
章男氏は、名古屋の高級住宅地にある実父章一郎氏の広大な邸宅に住む。章一郎氏は81年に旧トヨタ自販の社長に就き、翌年には自工との合併にこぎつけた張本人である。章男氏の知恵袋兼後見人は案外、同じ屋根の下に暮らす父上かもしれない。
(了)
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