自社ブランド確立への挑戦
変化への対応力
―会社の財産である熟練工が減少したことは、御社にとってマイナスなのでは。
篠崎 確かに、そのような見方もできます。しかし、減った分を補充しようとしても、今の若い人で職人を目指す方は少ないでしょう。さらにそこから熟練と呼ばれるまでになるには、相当な時間が必要となります。
ただ熟練工が減った反面、それがプラスに働いたことは、原価管理から設計・製作に至るまでを、全てコンピューター化できたことです。これによって結果的にですが、たくさんの熟練工を必要としなくなったのです。
―技術の発展は日進月歩ですからね。
篠崎 さらに言えば、時代が変化し、弊社の方向性がそれにうまく対応できたことです。最近では、エンドユーザーから求められる物自体が変化しました。
現在弊社では、(1)環境プラント向けに水処理機器、(2)電力会社向けの変圧器(トランス)用大型ボックス、の製作をメインとしています。今後はこの2つの事業と、それぞれのメンテナンスを確実に行なっていくことを核としていきます。とくに(2)に関しては、現在使用しているボックスの耐用年数のピークが3年後にきます。
今は地元の九州電力だけでなく、東京電力・中部電力・関西電力とも取引をしています。新たな分野への挑戦をしていなければ、東京、名古屋、大阪で仕事をすることはなかったでしょうね。
―日本全国を周っていますね。
篠崎 そうですね。ちなみに私の車の走行距離は、6年間で20万㎞ほどでした。先ほど言った通り、下請主体から脱却し、何としても自社ブランド製品を作ってパテントをとり、メーカーになりたいのです。
そのためには研究・開発費が必要です。利益がなければ、先行投資はできません。今できることを着実にやり、利益を出しながら併せて先行投資をしていく、このように考えています。
新分野への挑戦
―北部九州に点在している自動車産業への進出はいかがですか。
篠崎 正直、今のところ自動車産業への展開は考えておりません。ありがたいことに、弊社のこれまでの技術力を評価していただき、県や既に自動車産業へ入り込んでいる業者からの誘いはあります。
しかし、現状の弊社は、自動車よりも水処理プラントと変圧器のボックスの分野で確実に発展することを優先させています。ニッチな分野ではあるかもしれませんが、この分野でなら絶対に他社に負けない製品を作れる、というところまで総合的に引き上げていきたいと思っています。そのためには、まだまだ課題点はありますからね。
―では、今後どのような分野で、自社ブランドの開発を目指しているのでしょうか。
篠崎 まだ全てをお話することはできない状態なのですが、一つは医療機器の分野を考えています。具体的には、心臓ペースメーカーなどに使用される燃料電池です。
これまでも、電力会社向けにアルミニウムやステンレス製の変圧器用ボックスの製作を行なっており、工場も新設しています。現在はグレードの高いものを製造することで、自社ブランドの確立を目指しているところです。そのなかで、技術力の結晶とも言える医療機器分野への挑戦は、意義があります。これまで培ってきたもの、そして挑戦していく強い意気込みで、自社ブランド製品を世に出したいですね。
―時代の変化に敏感なこと、そして常に一歩先を考える知恵を出すことは、業界を問わず重要です。本日は大変お忙しいなか、ありがとうございました。
篠崎 こちらこそ、ありがとうございました。
【新田 祐介】
<取材後記>
世界的な経済状況の悪化が各マスコミによって報道され、明るい話題が極端に減少している昨今。特に自動車や半導体業界を初めとする製造業でのそれは、著しい印象がある。ましてや、製造業の街・北九州地区ではなおさらである。しかし、篠崎社長のように時代の変化を肌で感じ、長期的な施策を打つことは必ず新たな展望を開くことにつながる。これは製造業だけに限定されることではなく、全ての業種に当てはまることだ。そのためには、やるべきことはたくさんある。もっともそれは、自社ブランドを確立させるという強い信念があるからこそできるのだ。
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