◆自民懸命の巻き返しでも「170-180議席」
「政権交代」が焦点の総選挙は、8月18日の公示を前に早くも終盤の様相を示している。 8月投開票という灼熱の選挙戦は明治以来107年ぶりのことで、「解散から40日近くも気温30度以上のなかを走り回らなければならない。これじゃ死者が出てもおかしくない」と真顔で語る候補者もいるほどだ。
自民党の苦戦ぶりは、党本部の選対本部の空気でも明らかだ。
本来なら、本部にどっかり座って指揮を執る立場の細田博之・幹事長、菅義偉・選対副委員長ら幹部は自分の選挙が心配で頻繁に地元に戻っており、選対本部にはスタッフだけがいることも珍しくない。「これぞ、司令塔不在の状況」(選対スタッフ)なのだ。
ブロック別に見ると、北海道、東北、北関東、東海などで自民党は壊滅状態に近い劣勢に立たされ、前回の総選挙で与党が24勝1敗だった東京は自民7、8議席、前回ほぼ全勝の神奈川、全勝の兵庫でも大きく負け越しそうな情勢になっている。
自民党が比較的健闘しているのは、四国、中国、九州の西日本だが、それでも小選挙区の半分を取るのさえ厳しい。
大物政治家では、武部勤・元幹事長や中川昭一・前財務相、九州では山崎拓・元副総裁、太田誠一・元農水相など実力者が軒並み大苦戦に陥り、町村信孝・前官房長官、伊吹文明・元幹事長、古賀誠・選対本部長代理などの派閥領袖たちも当落線上にある。こんなことはかつてなかった。
とはいえ、長期戦だけに、気になるのは選挙戦終盤で風向きが変わるかどうかだ。
自民党のベテラン前職は、「麻生内閣の支持率もわずかだが上向きだし、8月17日には4-6月のGDP速報値が発表され、5%前後のプラスに転じる見込みだ。それで景気対策が正しかったことがアピールできる」と期待し、政府も「景気好転」のキャンペーンを計画している。しかし、GDPのプラス転換は前期の数値が悪すぎた反動であり、年間の成長率は依然として過去最低水準のマイナスに変わりはない。形勢が大きく動くほどの材料になるとは思えない。
「各選挙区の情勢を見ると、政権交代ムードの裏側で、有権者の世代交代の期待が大きいことがわかる。自民党のベテラン組が軒並み苦戦している一方で、地道な地元活動をしてきた若手・中堅議員は民主党のベテランを追い上げている。解散直後は自民150議席という悪夢の状況が予想されたが、これなら170-180議席くらいは期待できるかもしれない」(前出の自民党前職)。
自民党の選挙のプロは、情勢をそう分析している。自民党が「170-180議席」の場合でも、民主党は「250-260議席」で単独過半数の勢いなのだ。
むしろ、自民党候補の多くが心配しているのが幹部たちの失言だ。
麻生首相は長崎原爆の日の平和祈念式典で「傷跡」を「しょうせき」と呼んで“漢字が読めない総理”の古傷を思い出させたし、“酩酊会見”で大臣を辞任した中川・前財務相は地元で、「国民のため、皆さんのために酒を断つ」と宣言したが、断酒は自分の選挙のためであって、「国民のため」とは思い上がりも甚だしい。
「感覚がズレている。逆転の秘策を練る策士もいないし、こんな幹部たちのせいで有権者は醒めていき、選挙戦で地元を回っても反応が全くない」と、自民党の閣僚経験者は語る。
~つづく~
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