<耐震性に疑問>
MOX燃料は、日本原子力発電敦賀1号機および関西電力美浜1号機で試験的に使われたことがあるが、営業運転に使おうというのが浜岡4号、玄海3号、伊方3号の3原発。フランスで再処理したMOX燃料は、今年5月にそれぞれの原発に搬入されている。電力全社が同様の計画をしているが、具体化していたのは上記3社だけ。「計画通り11月には運転開始する予定です」(九電広報室)というように、まず九電が先陣を切り、四電が続くが、中部が未定になるのは必至だ。
しかし、プルサーマルには地元それぞれで反対運動があるように、その安全性に対する疑問の声が強い。もともとウラン燃料を使うことを前提に設計されている原発に、MOX燃料という未知の燃料を持ち込むこと自体への危惧だ。国も電力も「安全性は確認されている」というが、運転実績があるのはフランス、ドイツぐらいで、他は日本を含めて試験の域を出ていないと見る専門家も少なくない。とくに地震国日本で不安視されるのは当然だ。
MOX燃料自体、高速増殖炉という、燃やせば燃やすほど新たな燃料を得られるという「夢の原子炉」で使うために作られたもの。しかし、夢はあくまでも夢でしかなく、高速増殖炉の実用化は技術的に困難とされ、日本とフランス以外のほとんどの国が開発計画を断念している。それを通常の原発に転用しようといのがプルサーマルだが、原発そのものが地震のない欧米で開発されたシステムである。日本では耐震性を高めて設計、建設されているとはいっても、国自体が地震の巣の上に立地している。その結果は柏崎刈羽、浜岡が示す通りだ。
現在、日本には11電力、55基の原発があるが、幸い旧ソ連のチェルノブイリ原発や米スリーマイル島(TMI)原発のような巨大事故は起きていない。しかし、各社の原発ではこれまで大小無数の事故があり、そのなかにはチェルノブイリやTMI事故にも繋がりかねない重大トラブルも少なくなかった。原発はきわめて複雑で微妙なものなので、大事故のほとんどはいくつかの要因が重なって起こる。チェリノブイリ事故も、原発そのもの欠陥に運転員の判断ミス、さらには地震も影響していて未だに完全解明されていない。
<11月から本格運転始まる>
そのチェリノブイリの事故原因で気になるのが、燃料棒自体に重大な疑惑があることを指摘した旧ソ連科学アカデミーの学者の存在だ。旧共産圏のアカデミー会員は一般の大学教授より格上の存在で、ノーベル賞受賞者を含む錚々たる研究者が多数いる。その一人であるA氏は、ソ連崩壊後にウクライナ科学アカデミーに移り、チェリノブイリ事故原因を多角的に研究。その結果、燃料棒のなかにウラン濃縮度が通常の5~10倍高いもの、あるいはプルトニウムが混合されていた可能性があることを突き止めた。
同氏の指摘通りならば、核分裂を制御するのが難しくなり、何かのきっかけで原子炉が暴走する危険性が高い。事故は原子炉の機能をテストするときに起きたが、燃料棒そのものに問題があり、さらにさまざまな要因が加わった可能性があるということだ。それだけ燃料棒は複雑、微妙な動きを誘発するものであり、プルサーマルに対して危惧、反対の声が上がるのも当然といえよう。
玄海原発の地元である佐賀県も同様、住民による反対運動はあるが、九電は先のように予定通り進める方針。同社と原子力安全協定を結んでいる佐賀県が「九電は05年の福岡西方沖地震、および06年の耐震設計指針改訂を受けて、耐震安全性評価結果を国に報告。問題はないようですので予定通り行なわれることになります」(原子力対策課)といえば、「耐震安全評価への国の結論はまだですが、プルサーマルはそれと関わりなく地元の了解を得ています」(九電広報室)というわけで、11月には日本初の本格的なプルサーマル運転が始まる。
とはいえ、「プレ東海地震」における5基のなかで1基のみ異常に揺れが強かったのは地震国ならではの謎だ。4基が集中している玄海原発でも同様の現象が起きかねない。プルサーマル開始までに、国はその謎解きをしてほしいものだ。
(了)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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