3大メガバンクのなかで、三井住友は他の2行と比べて規模で劣る。昨秋のリーマン・ショック以降、ライバルの三菱UFJがモルガン・スタンレーに約20%(9,000億円)出資し、野村ホールディングスが破綻したリーマン・ブラザーズのアジアや欧州部門を買ったが、こうした国際戦略も出遅れた。奥頭取が昨年秋、かつての親密先のゴールドマン・サックスに対して出資させてほしいと申し出たのだが、「申し出はありがたいが結構だ」とあっさり袖にされたのだ。全マスコミが、奥頭取の自宅につめかけるなかで求愛したにもかかわらず、まったく相手にされなかったのが恥ずかしい。
三井住友の企画部門がこうした劣勢の挽回を狙ったのが、サブプライムローン問題で経営難に陥った米シティが売りに出した、日興の買収だった。奥頭取が言うように、当初はリテール部門だけの買収の予定だったらしいが、ホールセール部門の大半もおまけでついてきた。単純に、大和と日興をくっつければ野村を襲うことができる。企画部門のエリートたちはそう考えたのだろう。
<反西川派の齟齬>
だが、証券2位の大和と3位の日興は、熾烈な競争を繰り広げてきた間柄だ。それに「大和には、住友に対して被害者意識と反発がないまぜになった複雑な感情がある」(住銀元幹部)と言われる。この点を知らずに、三井住友の交渉担当者だった国部毅専務執行役員と車谷暢昭経営企画部長が、功を焦りすぎた面があるようだ。国部氏は、日本郵政から三井住友に戻る横山邦男専務(西川派)とライバル関係にあり、ソリがあわない。横山氏との差を決定的にする手柄が欲しかっただろう。一方の車谷氏は、人事で虐げられてきた旧三井のエースであるがゆえ、住友の親密先だった大和の複雑な感情や歴史的背景を知らない。
2人は、強烈な個性の持ち主だった西川前頭取と距離をおき、「とくに車谷君は、西川追い落としで暗躍した男です」と、西川の側近中の側近は打ち明ける。
先代を超える「大頭取」になりたいのが奥頭取の悲願といわれているが、本人の力量に加え、反西川派である部下たちの能力もいまひとつだったようだ。
【神鳥 巽】
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