強すぎるガリバーをくじくことで新規業者を優遇し、競争を促進させる。世界中どこでもこうしてきたはずの通信業界の競争政策が、日本では突如逆行しそうな雲行きだ。民主党政権はNTT保護に舵を切ろうとしている。組閣後、9月17日に初登庁してきた原口一博総務大臣は「自公政権時代にできた枠組みは、世界の2周遅れの古い議論だ」、「会社を切り刻むのが改革というのはもはや時代遅れだ」と述べ、予定されていたNTTグループの「再分割」論議を封印する考えを示した。この姿勢に、ソフトバンクなど新規参入事業者はいま猛反発している。
<NTT労組に基盤持つ原口大臣・内藤副大臣>
巨大すぎるNTTが常に優位に立ち、新規参入事業者は辛酸をなめる。通信業界でくりかえされてきたこんな構図を改めようと、小泉純一郎首相時代の2006年6月、自民・公明両党と政府との間で「通信・放送の在り方に関する政府与党合意」が結ばれた。ネットワークのオープン化に必要な公正ルールを整備するとともに、NTTグループの組織形態の見直しも含めて2010年に検討することが、そこには盛り込まれた。
NTTは東西地域会社などに分割されたものの、持ち株会社を頂点に東西会社やドコモ、データなどが連なり、実質的にグループ一体の経営になっている。このありようを再度見直すとともに、NTTが74%と独占している光ファイバー網を他業者に平易に開放することが、この政府与党合意の問題意識にはあった。欧米では独占事業体の通信会社が分割されて、競争条件を公平にし、新規事業者が続々生まれた。「上げ潮」政策を狙っていた当時の自民党は、通信・放送業界の規制緩和を皮切りに経済成長路線を探るねらいだった。
かつては小泉首相と改革を競い合っていた民主党だが、いまではすっかり変質している。原口大臣の下で副大臣になった内藤正光参院議員はNTTの技術部門の社員あがりで、当然NTT労組が全面的に支援して当選してきた「組織内候補」だ。内藤副大臣は就任以前から「最初から組織を切り刻むというのはいかがなものか。もっとユーザーの目線でどうあるべきか考えるべきだ」とNTT再分割に反対意見を披露してきた。当然、NTTグループが労使一体で再分割に反対してきたことが背景にある。
NTT労組が中核をなす情報労連の推薦議員は、現在衆参両院で5人いる。内藤氏は組織内世話人だ。17万5,000人の組合員数は、連合加盟の民間労組ではJP(日本郵政)グループ労組に次ぐ規模だ。NTT労組がつくる政治団体「アピール21」は、年間5億円以上もの資金を持ち、支援する民主党系の議員たちへの献金やパーティー券購入などに充ててきた。アピール21が公表する支援議員24人には、原口総務相と内藤副総務相の名前もある。
【神鳥 巽】
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