<新政権に覗く「守旧」の顔>
選挙で世話になったNTT労組にいい顔をしようと、原口総務相が就任後真っ先に「利益誘導」したかのように見える。原口氏の記者会見の発言を分析すると、NTTの経営者たちが過去に発言した言い回しと酷似している点から見ても、NTT側からの働きかけを受けていたと推測される。ソフトバンクの調べによると、両者の発言の酷似はこうだ。「手足を縛られて我々がやろうとしていることをやれと言われてもできない」(NTT和田紀夫社長・発言当時)、「NTTは手足を縛って飛べと言われているように見える。それでは飛べない」(原口氏)。「規制の枠組みが古すぎる」(和田氏)、「古い時代のドミナント(独占)規制だけで議論すると、落とし穴にはまる」(原口氏)。ソフトバンクによると短時間の会見中、大臣の発言のうち4カ所が、過去のNTT幹部の発言と似ていたという。
独占NTTによって、日本の通信業界が世界から遅れをとったのは明らかだ。デジタル携帯電話の通信方式PDCは日本以外に採用する国はなく、結局、日本の携帯電話文化は「ガラパゴス」と呼ばれる世界の潮流と隔絶した進化を遂げたのは周知の通りだろう。傾注した高速回線ISDNも日本仕様にすぎなかった。発注元のNTTの意向に沿うあまり、結果的に日本の通信機メーカーが世界市場で後塵を拝することにもつながった。ノキアやサムスン、モトローラが全世界展開しているのとは好対象である。
毀誉褒貶は激しいものの、ソフトバンクの無手勝流の参入がなければ日本の通信業界の競争が促進されなかったのは明かだろう。ISDNに固執するNTTを尻目に、孫正義社長がただでADSLのモデムを配り、ブロードバンド環境は一気に世界最高の水準に達した。携帯電話市場もNTTドコモの50.4%のシェアに対し、au(KDDI)28.5%、ソフトバンク19.4%とシェア格差は次第に縮小している。
次は光ファイバーが主戦場になる。「しかし、NTTはメタル回線の開放に懲りたのか、光ファイバー回線の開放についてはものすごく厳しい条件を言ってくるのです。とても向こうの言い分では、NTTと対等にたたかうのは無理なんです」(ソフトバンク幹部)。1本単位ではなく、8本単位の光ファイバーでないと貸し出さないなどと厳しい制約が果たされているのだという。
支持基盤に政策がゆがめられるのであれば、それは自民党の旧来の族議員と変わらない。鳩山民主党政権は変化の期待を背負いながら、次第に「守旧」の顔ものぞかせている。
【神鳥 巽】
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