自転車部隊の結成である。
幸い、事務所には若者のスタッフの割合が高かった。若手ボランティアを3~5名程度のグループに分け、エリアを決めて走り回らせる。自転車のフロントには「民主党」と書かれたプレートを、後ろには「楠田大蔵」などのノボリをつける。市民の目を引かないわけがない。この自転車で日がな一日走り回るのである。
この自転車作戦には2つの目的が課されていた。一つは無党派層に民主党・楠田大蔵をアピールすること、もう一つは後援会など支持者に積極的な活動を見せて後援会満足を得ること。つまり浮動票を集めて、後援会の地盤を固める作戦なのだ。加えて、楠田氏が34歳という若さをアピールすることもできる。
当初、楠田氏本人が乗らない(街宣車にてより広域にアピールしていた)ため「意味がない」との反論もあった。しかし、支持者たちからは「昨日自転車をみたよ」「よくがんばっているね」との声が聞かれ、また無党派層からは「なんか変な自転車が走っていると思ったら民主党だった」との感想が挙げられたことから、一定以上の効果があったと思われる。
自転車作戦をとった楠田陣営の一方、原田陣営は定番の作戦である辻立ちや組織固めに躍起になっていた。奇襲にも似た自転車作戦を展開した楠田陣営と、従来の作戦に終始した原田陣営。結果は楠田氏に軍配が上がった。
30日、開票率0%で当選確実を得た楠田氏だが、詳細を見ると圧勝ではなかったことが分かる。当選した楠田氏は14万8,502票、落選した原田氏は12万5,767票。とても大差とは言いがたい。農村部では、原田氏が得票数で勝っているところもある。きわどい勝利だったのである。
浮動票をより多く獲得する策に出た楠田氏が勝利した。自転車部隊に願いを託し、信じて続けたこと。これが福岡5区における民主党勝利の真相だと感じられた。
スタッフをまとめ、支持者を魅了し、あらたなファンを獲得していく。選挙とは、まるでロックバンドのメジャーデビューのようである。デビューした後は、いい曲を発表し続けることが生き残りのカギとなる。政治家の場合、どれだけいい仕事をし、それをいかにして皆に伝えていくかが問題だ。
この若い小選挙区勝利者は今後、どのような働きをしていくのだろう。そして、どのように評価されるのだろう。結果は次の選挙でハッキリすることになる。
【柳 茂嘉】
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