<衰退を速めた一億総中流幻想の崩壊>
70年は、日本の総人口が史上初めて1億人を突破した年である。経済成長によって所得が増加したことから、自分を中流と考える横並び意識が広がった。「一億総中流」という言葉が使われるのは、このころからだ。それまで「高嶺の花」だったものが、手に入るようになった。マイカー、マイホーム、オール電化に海外旅行。物質的な豊かさを享受できる消費社会が出現した。
ファミリーレストランは、一億総中流社会の時代気分に受け入れられた。核家族の子供連れのファミリーが、マイカーに乗って郊外のファミリーレストランで食事することは、豊かさを実感できるものだった。
70年の外食産業の市場規模は2兆円。70年代から90年代までの30年間に市場規模は29兆円に膨張した。その成長を牽引したのがファミレス。すかいらーく、ロイヤルホスト、デニーズ(現・セブン・アイ・フードシステムズ)は、ファミレス「御三家」と呼ばれた。
ファミレスの特徴は、(1)FCもしくは多店舗展開、(2)徹底したマニュアル管理、(3)セントラルキッチン(集中調理工場)方式の導入、にある。これにより全国の店舗で、同じ料理が迅速に運ばれてくるようになった。
だが、ファミレスの大成功が、衰退の原因にもなった。当り障りない家族向けメニューを並べることによって、どのファミレスも似たりよったり。同じメニュー、同じ味、同じ価格で、飽きられてしまったのだ。
この間、一億総中流社会から格差社会へと転換した。貧困層が増大。ライフスタイルは大きく変化した。ファミレスの衰退は、一億総中流化幻想が崩壊したことが背景にある。
<キーワードは「低価格」と「単品」>
格差社会で主流に躍り出たのは何か。キーワードは、「低価格」と「単品」である。
ハンバーガーチェーンの日本マクドナルドホールディングス(東京都新宿区)は、節約需要にマッチした「100円メニュー」などのお得感で、来客数が増加。外食利用を控える傾向が強まるなかで、低価格メニューが人気となり、過去最高益を更新した。
「餃子の王将」を展開する王将フードサービス(京都市)は、低価格メニューの充実で若者を中心とした固定客のほか、高齢者などにも客層が拡大。今期(2010年3月期)の最終損益は4期連続で最高益を更新する見込み。
ラーメンチェーンのハイデイ日高(埼玉県さいたま市)も同様。今期(2010年2月期)の最終利益は5期連続で過去最高を更新する見通しだ。好調の理由は安さ。主力業態「中華食堂日高屋」の中華そばは1杯390円、300gの野菜が入ったタンメンは490円だ。
巻き返しをはかるために、フランチャイズ店舗のオーナーや店長に権限を与えて、店舗ごとに違うサービスをするファミレスが増えてきている。こうなると、もはやファミレスとは言えない。本部一括仕入れ、本部一括調理、全店均一サービスで勝負してきたファミレスのビジネスモデルは崩壊寸前だ。
【日下 淳】
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