<アデランスにTOB持ちかけるも>
最近では、スティール・パートナーズが筆頭株主として26.7%を持つアデランスで、経営陣側の「ホワイトナイト」(白馬の騎士)として登場しようとしたのが、ユニゾンの木曾氏だった。スティール側が今年3月、取締役をほぼ自らの推薦者で固める人事案を5月の株主総会に向けて提出してきたため、危機感を抱いたアデランスの現経営陣が頼ったのがユニゾンだった。ユニゾンは5月、重要事項への拒否権を持つことができる3分の1以上・35%の株式取得を目指して、アデランス株の公開買い付け(TOB)を発表した。ただし、これには条件があった。木曾氏らの提案する役員候補者の承認など、ユニゾン側の提出議案がアデランスの株主総会で認められればTOBを実施するという、きわめて変則的な「条件付TOB」だった。
木曾氏は記者会見で、自身が会長に就くことを表明し、「ユニゾンとしては3~5年間はアデランスを支援していきたい」と、深いコミットメントを示唆していた。ところが株主総会では、スティールなどの反対で木曾氏の役員選任は否決され、最終的にユニゾンはTOBの実施を見送っている。金融庁や証券監視委は、このときの「条件付」TOBという手法が「本当にTOBが行なわれるのか、そうでないのか、きわめて不透明な状態におき、市場を惑わす行為」として不快感を示していた。
証券監視委の木曾氏への強制調査で、このアデランスの件でインサイダー取引をしていたのではないかとの観測が市場関係者の間に広がったが、実はそうではないようだ。
<終焉迎えた「ファンドの時代」>
「恐ろしいほど、ありがちなケースでした」と同監視委関係者はいう。監視委によると、木曾氏は自分の担当した以外のユニゾンの投資案件の情報を聞きつけると、交際している女性ら自分の親しい人の株式口座を使って対象銘柄の売買を繰り返していたという。時期はかなり以前からで、グレーとみられる取引を含めてもその総額は数千万円だった。億円近い稼ぎがあるのに、高級マンション、外車、若い女性との交際という派手な生活の維持のため、インサイダー取引に手を染めていたとみられる。
証券監視委は、著名ファンドの有名なパートナーという、いわば「プロ」の犯罪で、職業倫理上に大いに問題があると考え、木曾氏を東京地検に刑事告発する考えでいた。このため、自らの逮捕を悟って自殺したらしい。
ただし、彼の自殺で調査は打ち切られる。監視委関係者は「確実に黒とめぼしをつけていた取引は限定されていた。事情聴取で全容を明らかにするつもりだったのに残念だ」という。インサイダー捜査の過程で、対象者が自殺するのは初めてのケースらしい。
衝撃を受けているのがユニゾン・キャピタルだ。つい8月に1,400億円を集めた第3号ファンドを立ち上げたばかりだが、風評リスクにさらされ、出資した投資家の資金引き上げも考えられる。村上世彰氏が率いたM&Aコンサルティング(通称、村上ファンド)は06年の村上代表逮捕後、出資金や投資で得た株式を出資者に分配してファンドを解散している。ユニゾン、アドバンテッジ・パートナーズと並んで「国内独立系ファンドの御三家」と言われたMKSパートナーズも、昨年のリーマン・ショック以降、「投資環境が思うようにならない」と解散を決めている。
一斉を風靡した『ファンドの時代』は、終焉を迎えている。
【神鳥 巽】
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