丸石自転車の架空増資事件
高井氏は、飯倉HD取締役就任から5カ月後、やはり架空増資事件の舞台となり、社長や暴力団関係者が逮捕された東証2部上場の丸石自転車の監査役に収まった。
丸石自転車に触手を伸ばしたのは、病院乗っ取り屋グループだった。ジリ貧をたどる自転車に代わる事業の柱として、老人介護ビジネスを提案した。結び付けたのが、すでに乗っ取った医療法人松嶺会。丸石自転車の第三者割当増資を松嶺会が引き受けた。松嶺会を名義人に立て、丸石自転車の株式を手に入れたのだ。
丸石自転車に入り込んだ病院乗っ取り屋たちは、やりたい放題。手形が乱発され、それを割り引いた元暴力団組長やフロント企業が乗り込んできた。丸石自転車が松嶺会を引受先とする架空増資を仕組んだのも、これら仕事師たちだ。
丸石自転車は松嶺会との提携後、7回、120億円もの増資で大量の株券を発行したが、払込資金のほとんどは会社を素通りして闇の社会に吸い込まれていった。
このうちの1つが、03年3月に丸石自転車が松嶺会を引受先として実施した2億7,450万円の第三者割当増資。入金があった翌日に、同額を松嶺会に戻した。そして、同年5月に東京法務局に増資の虚偽の登記をしたというのが架空増資事件の概要だ。
身体検査をやったのか
以前、駿河屋や丸石自転車の架空増資事件が問題になったとき、高井氏は代理人弁護士を通じ「丸石自転車の増資事件にも駿河屋の増資事件にも一切関与していない」とする声明を出している。
高井氏は、一連の不正取引に関与していなかったかもしれない。だが、一度ならず二度も同じような事件師たちの詐欺的増資の舞台となった会社の役員を務めていたという責任は、免れるものではない。
亀井静香・郵政改革担当相は11月6日の会見で、高井副社長が架空増資事件などの舞台となった企業の役員などを務めていたことについて、「知らなかった」と困惑を隠さなかった。
誰がこうした人物を推挙したのか――それは、鳩山内閣で総務相を務める原口一博氏だとされる。佐賀県出身という同郷のよしみで、以前から親交を深めていた縁からだという。
それにしても、「かんぽの宿」疑惑で傷ついた日本郵政への信頼を取り戻さなければならないときに、新生・日本郵政が迎え入れる役員にふさわしくない。民主党政権は、きちんと「身体検査」を行なったのか。任命責任が問われる。
【日下 淳】
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