<財務省の“催眠術”にかけられた事業仕分け>
「財務省主導という報道は間違っている」――。
鳴り物入りでスタートした行政刷新会議の「事業仕分け」作業前半終了日の11月18日、“必殺仕分け人”の代表、枝野幸男・民主党元政調会長が記者会見で気色ばんだ。仕分け人たちに、財務省の視点から作業を指南する『極秘マニュアル』が配布されていたと報道されたことに怒ったのだ。
「政治主導で行政の無駄を省く」と枝野氏や蓮舫氏、民間から選ばれた“仕分け人”たちが予算の無駄遣いに大鉈を振う「事業仕分け」作業は、民主党政権の「改革」のシンボルとして国民の注目を集めている。
議論が国民公開で行なわれていることは画期的であり、民間の仕分け人たちが“手弁当”で熱心に作業に取り組んでいるのには頭が下がる。
しかし、枝野氏がいくら否定しても、作業が財務省のシナリオ通りに進められていることは否定できない。
事業仕分けの対象となっているのは3,000にのぼる国の事業のうち447事業。財務省主計局は10月中旬、総額95兆円の各省の来年度予算概算要求項目から、5兆3,000億円分の事業をリスト化し、「A(削減容易)」=約6,000億円、「B(困難)」=約1兆8,000億円、「C(相当困難)」=約2兆9,000億円の3段階に分類して行政刷新会議にあらかじめ提出していた。仕分け対象はそのリストをもとに選ばれた。
総務省の中堅キャリアが見透かした言い方をする。
「主計局は予算のどこを削るべきか全部わかっている。だから事前に目印をつけ、行政刷新会議に“ここ掘れワンワン”と教えてやった。主計局の作業を下請けさせることで、民主党政権には“政治主導だ”と花を持たせ、その実、予算カットで恨みを買う役をやらせている。相変わらず、ずる賢いやり方です」
実際に仕分け対象事業を見ると、100兆円規模の資金を持ち「埋蔵金の宝庫」と呼ばれる財務省の外国為替特別会計はじめ特別会計は対象外であり、仕分け作業の舞台となっている財務省傘下の独立行政法人・国立印刷局市ヶ谷センター(東京・新宿区)は時価200億円といわれる遊休資産だが、ここも仕分け対象から巧妙に外されている。
まさに、仕分け作業そのものが財務省演出のパフォーマンスにすぎないことがわかる。
それ以上に問題なのは、仕分けに夢中になっている民主党政権が、既存の予算を削減しなければマニフェストの予算を捻出できないと思い込まされていることだ。
「自民党政権時代の予算をちまちま削っても、マニフェストに必要な巨額の財源には絶対に届かない。民主党は、一般会計と特別会計を含めた総予算を組み替えると言っていた。それなら優先順位は、最初に思い切って子ども手当や高速道路無料化など必要な予算をつけたうえで、主計局に指示して残った財源からゼロベースで必要な事業を査定させるのが筋です。財務省は従来の予算編成の仕組みを崩したくないから、民主党の議員に予算を削るのがどれほど大変かを思い知らせようとしている」(前出の総務省キャリア)
民主党のマニフェスト実現に必要な予算は約7兆円。鳩山首相は早くもマニフェストの見直しに言及し、国家戦略担当の菅直人・副総理は「子ども手当」や農家の「個別所得保障」の予算削減に乗り出した。政権全体が、財務省の催眠術にかかってしまったようだ。
【千早 正成】
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