[穴吹工務店倒産の衝撃]
「かんぽの宿」疑惑に登場
穴吹工務店といえば、今春、大きな政治問題になった「かんぽの宿」疑惑に名前が出てくる。郵政民営化の前の日本郵政公社が実施したバルクセール(一括売却)のときだ。郵政公社は05年に郵便局など60物件を163億円で、06年に社宅など186物件を212億円で、07年にかんぽの宿・社宅・体育館など178物件を151億円で売却した。
共同購入したのは、いずれもコスモスイニシア(旧・リクルートコスモス)を代表とする企業集団。穴吹工務店と穴吹不動産センター(現・穴吹コミュニティ)は、その企業集団に参加していた。
物件は参加企業で山分け。07年に落札した物件では、1万円で払い下げられた鳥取県岩美町の「かんぽの宿」が、半年後に6,000万円で転売。土地建物の取得額が21億円の鹿児島県指宿市の「かんぽの宿」も、たったの1万円で売却されていた。まるでバナナの叩き売りである。落札したのはリーテックのペーパーカンパニーで、リーテックにはコスモスイニシアが出資し、リーテックに資金を出していたのはオリックスだった。
慧光塾の三羽烏
穴吹氏は、慧光塾(えこうじゅく)の光永仁義氏(故人)との関係が有名だ。慧光塾は、光永氏が93年に設立した経営コンサルタント会社だが、大量の塩を撒いての“お清め”や、手をかざしてパワーを与える“心霊治療”を行なうなど、新興宗教的な色彩が強かった。
慧光塾が全国的に名を知られるようになったのは、のちに総理になる安倍晋三代議士と関係があったからだ。安倍氏は光永氏が設立した光カメラ販売や光国際通信の取締役を務めていた。当時、小泉内閣の官房副長官だった安倍氏と光永氏の「不適切な関係」を、各週刊誌が取り上げた。慧光塾が主宰する経営セミナーの参加企業から、安倍氏の後援会組織「安晋会」に裏献金が渡った可能性があると報じた。
経営セミナーは、月1回開かれる「光フォーラム」。光永氏に心酔した穴吹英隆氏はその有力メンバーで、「慧光塾の広告塔三羽烏」といわれるほどにのめり込んだ。
信仰心が嵩じた穴吹氏は、光永氏と姻戚関係を結ぶ。穴吹氏の長女と光永氏の長男が結婚。05年4月に、ホテルニューオータニで結婚披露宴が開かれた。
安倍晋三代議士夫妻が媒酌人を務め、貴乃花親方夫妻など有名人が名を連ねた。穴吹氏の慧光塾人脈では、「マンション業界の風雲児」といわれたダイナシティの中山諭氏も出席。穴吹氏は中山氏を息子のように可愛がり、穴吹工務店はダイナシティの大株主になった。
披露宴から3カ月後の05年7月に光永氏が死去。なぜか、慧光塾参加企業の不祥事や倒産が相次いだ。穴吹氏の「弟分」だったダイナシティの中山氏は、覚せい剤所持で逮捕されるという不祥事を起こし、芸能人やスポーツ選手のタニマチぶりは一場の夢で終わった。そして、慧光塾の熱烈な信者だった穴吹氏は解任された。ご利益の賞味期限は切れていた。
【日下 淳】
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