<新興国の「連鎖破綻」に恐怖する欧州諸国>
ドバイのバブルに踊った英国の銀行は、無謀な不動産関連融資にのめり込んできた。地元在住のシリア人で、不動産業者のアリ・ナカワティ氏は、市場の実勢価格を無視した貸付が横行していたことを打ち明ける。
「私が知る例は、270万ディルハム(約6,480万円)のアパートを購入した人に、担保価値を上回る300万ディルハムを融資していました。担保価値よりも高い金額を貸し出す姿勢に、正直言って驚きました」
より多くの金利収入をあてこんで、多めに貸し出していたらしい。今後、英銀にドバイ関連の不良債権が増大する可能性は否めない。まるでバブル期にカブトデコムやイ・アイ・イといった新興の不動産業者に、無謀な融資をしてきた拓銀や長銀といった日本の銀行を彷彿とさせる。我々日本人に、今のドバイの光景は強烈な既視感がある。
世界の金融市場関係者にとって、ドバイ・ショックは新興国バブル崩壊を物語る。市場では「ドバイの次はどこか」と物色する動きが広がっている。
その一つが、ドバイ同様に対外金融機関への負債が大きいギリシャである。アテネ五輪を前に不動産開発と観光開発が進んだギリシャは、2,809億ドルの金融債務のうちフランス(729億ドル)とスイス(591億ドル)の両国が40%強を負担している。同様に、近年工業化が急速に進んだチェコやハンガリー、風光明媚さから観光開発が盛んだったクロアチアなど東欧諸国への貸出が大きいのは、東欧の窓口となってきたオーストリアである。オーストリアはチェコに557億ドルを始め、ハンガリーに367億ドル、クロアチアに246億ドルもの融資残高を有し、東欧諸国にとって最大の貸し手だった。
BRICsの一角であるブラジルの対外金融債務のうち、39%の1,294億ドルはスペインが負っている。ロシアへの最大の貸し手はフランスとドイツだし、リトアニアなどバルト三国はスウェーデンの比重が著しく大きい。新興国の経済悪化は、欧州先進国の主力銀行の経営を揺さぶる。いまや欧州中に火種があることが浮き彫りになっているのだ。市場には「ドバイ・ショックは落ち着いた」と見る向きもあるが、楽観はできまい。今後、欧州経済の二番底がありえよう。欧州は、新興国のドミノ倒しのような連鎖破綻に恐怖しているに違いない。
【神鳥 巽】
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