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経済小説

飽くなき権力への執念 [5]
経済小説
2010年1月20日 10:38

野口 孫子

社長就任 (2)

 ライバルの吉川を子会社へ遠ざけることができ、坂本はホッと一息ついた。
 名古屋出身で心を許せる側近である岡田に「これで喉につかえていた棘は取れたな」と感慨深げに言った。岡田には「君を社長室長に起用するつもりだから」と告げていた。
 岡田は「いつ、坂本の逆鱗に触れ、首になるか」と思いながらも、上手に、「これで峠は越えましたね。今回、一気に坂本体制を作ることは難しいでしょう。とりあえず、営業部門だけ固めましょう」と進言した。
 本社部門の役員には中井の息がかかっていて、今は手が付けにくい。
 坂本は「営業部門については、中井の口出しはないよな」と岡田と人事部長に話しかけると、自分らの構想である名古屋の元部下の登用に重点を置いた人事表を見せた。
 特に、各地の営業本部長の半分は、名古屋人脈で固められている。その下の主要都市、福岡・広島・大阪・東京地区の支店長も名古屋出身者で占められていた。
 岡田も人事部長も、坂本と面と向かって反対だとは言えない。「いい人事案ですね」というのが精一杯だった。自分の出世のこともある。逆らえば、必ず報復人事がある。名古屋時代、それをいやというほど見てきた。
 サラリーマンの処世術として、このような権威主義の上司に対しては、「ごもっとも」というのが一番である。
 案の定、全国津々浦々の社員からは、「きしめん人事」と冷やかに揶揄されていた。
 名古屋出身の、自分の子飼いの部下を優遇し、起用したのに対し、関東地区の営業本部長や支店長に関しては、報復を思わせるような人事を断行した。関東地区は、かつての会長・渡部の息のかかった幹部が要職を占めていた。坂本はこの際、渡辺一派を一掃することに心を決めて、「関東地区は大幅に人事を替えたい」と中井に告げた。
 中井と渡部はかつて社長の椅子を巡って「わが陣栄に」と、役員の争奪戦を繰り広げた間柄であった。そんなこともあり、中井は関東地区人事の処遇については、これを黙認した。
 これに気を良くした坂本は、自分の構想通りの人事を断行した。中井は後になって、「これほどまでに、名古屋人脈を起用するとは思っていなかった」と狼狽し、述懐することになる。「わしの目の黒いうちは、好きにはさせん」と言いながらも、坂本の社長就任前から、すでに暴走を止められなくなっていた。
 社員たちは静かに、そしてクールな目で、脇を身内で固める坂本のバランスを欠いたやり方を見守っていた。
 幹部社員の大半は、坂本の黒い噂のことを知っている。のみならず、権力志向が強く、私利私欲に走る傾向が強いことも承知している。
「何も知らん中井は、ほんまにアホや」
 社員の誰しもがそう思っていた。これほどの問題になっているのに、「中井はなぜ、坂本を指名したのか」という疑問を感じない者は皆無であった。

(つづく)

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