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経済小説

飽くなき権力への執念 [6]
経済小説
2010年1月21日 10:25

野口 孫子

社長就任 (3)

 坂本に対する多くの誹謗中傷の投書が寄せられ、社外の関係先からも危惧の念が訴えられていたが、山水建設は新聞辞令を既定路線として、坂本体制の確立を急いでいた。
 これだけ内外からの不評が多い坂本の振る舞いを、中井は否定することもできず、ただ忸怩たる思いで沈黙していた。それにしても、社長就任が決まった後に、これだけ滅茶苦茶に言われる人物も珍しい。
 ともあれ、このような状況は会社にとって悲劇としか言えない。
「坂本と中井の間に何かあるのでは?」
 そんな噂が、社内外で疑心暗鬼に飛び交っていた。中井の優柔不断の姿勢が、今日の禍根となって残ったのである。
 中井は今さらながらも迷っていた。あまりにも坂本の周辺には黒い噂が充満している。しかも、日を重ねるごとに、中井の耳に入る噂は数と黒さの濃度が増しているように感じられた。
「あいつだけは社長にしてはだめですよ」
 坂本と同期の特殊事業担当・桜井専務は、中井に対して何度も意見具申していた。
「わしも実は困っているんだ。部下に調べさせても、その噂が本当かどうか、裏が取れないんだ」
 坂本の噂には決定的な証拠がなかった。中井はその動かぬ証拠を1秒でも早く欲しがった。悪い結果であれ、この不安な気持ちを落ち着かせたかった。
 そんな桜井の動きは、そのうち坂本の知るところとなり、1年後には桜井を専務職から解き、関係会社へ転出させてしまうのである。
 株主総会は6月に行なわれる。坂本は、そこで正式に社長に決定される。しかし、定期人事異動は年度明けの4月に発令される。その一連の人事発表の内容は、独断専行的傾向の強い坂本色がくっきりとうき彫りになっていた。
 社員の間では、実質上の創業者である山田大二郎が営々と築いてきた「一致団結」の社風が、坂本の社長就任によってなくなってしまうのではとの、しらけムードが漂い始めていた。
 坂本は名古屋時代、強権を振るって支店長、所長、店長の人事をコロコロと変え、ワンマン体制を敷いてきた人物である。そうした強権の嵐のなか、ゴマをすり、坂本の腰ぎんちゃくになって生き延びてきた幹部が、全国の主要都市に配属された異常な人事。それが新社長を迎えて気分が一新されるどころか、しらけムードが蔓延するのも無理からぬことである。
 会社の士気の低下は、すぐには表面化しない。しかし、3~4年後には、必ず数字として表れる。
 そんな社内のムードを知ってか知らずか、坂本は「自分がいないと、この会社は立ち行かない」と周りに豪語していた。中井も、株主総会が近づいたことですっかり諦めてしまい、「わしの眼の黒いうちは悪いことはさせん」と実の伴わない口癖を、オウムのように繰り返すだけであった。
 6月吉日、山水建設株主総会において、中井会長および坂本社長が、正式に決定した。
 晴れやかな坂本の表情とは対称的に、どす黒い不安を抱える中井の顔に笑顔はなかった。

(つづく)

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